2020年10月14日
Open Network Lab FUKUOKA(Onlab FUKUOKA) は、大手企業とスタートアップがオープンイノベーションを通した事業創出を目指すプログラムです。福岡市を舞台にスマートシティの社会実装を目指し、福岡地域戦略推進協議会(FDC)とFukuoka Growth Next(FGN)、デジタルガレージが共催しています。
2019年夏に第1期が開催され、第2期の募集中のOnlab FUKUOKA。運営拠点は福岡ではあるもののオンラインを駆使することもあり、参加企業の所在地は問いません。国内はもちろん、世界各国で活動するスタートアップの参加も大歓迎です。
スタートアップがOnlab FUKUOKAに参加するメリットとは何か? プログラムの特徴や前期の実績や事例について担当するプログラムディレクターの大木健人と松田信之にオンラインでインタビューしました。
< プロフィール >
Open Network Lab FUKUOKA プログラムディレクター 大木 健人
2009年4月より野村不動産株式会社にて不動産開発のプロジェクトマネジメントに従事し、2017年グッドデザイン賞受賞(プラウド千代田淡路町)などを担当。2019年よりデジタルガレージに参画、Open Network Lab FUKUOKAのプログラムディレクターとして、スマートシティにおけるテックの社会実装を目指し、不動産、金融、ヘルスケアなど多岐に及ぶオープンイノベーションを推進。
一級建築士/宅地建物取引士
< プロフィール >
Open Network Lab 松田 信之
東京大学院在学中に学習塾向けコミュニケーションプラットフォームを提供するベンチャーを共同設立。2008年4月より株式会社三菱総合研究所において、民間企業の新規事業戦略・新商品/サービス開発に係るコンサルティングを経験。近年ではスタートアップと大企業、自治体などを巻き込んだオープンイノベーション支援にも携わる。
― まずOnlab FUKUOKAはどんなプログラムなのか、教えてください。
大木:Onlab FUKUOKAは採択されたスタートアップとパートナーとして協賛する大企業とが、オープンイノベーションを通して新しい事業を創出するプログラムです。その事業が軌道に乗ることが、スタートアップの成長支援にも繋がっています。
— Onlab FUKUOKAの第2期が動き出すということで、前期から変更した点はありますか?
大木:変更したのは、プログラムのテーマですね。第1期では、福岡市内で実証実験(PoC)を行うことを目標としていました。しかし今回は「大企業とスタートアップのオープンイノベーションによる事業創出」をテーマに、事業が社会実装されることをより意識したオープンイノベーションプログラムに舵を切っています。
— 第1期のパートナー企業は、やはり福岡の企業が多かったですか?
大木:参加されたパートナー企業は地場の企業が圧倒的に多くPoCの組成に至ったプロジェクトも多かったですね。一方で第2期は、PoCをファーストステップとして事業創出を狙うパートナーが多く集まっています。地場企業も東京の会社も等しく積極的な関わりをしていただけるよう、環境を整備していこうと思っています。
参加されるスタートアップも九州・福岡に限らず、全国から募集しています。いい意味で「福岡」を気にせずに応募してほしいです。第1期は日本や海外から63社に申込みいただき、1次選考やピッチ大会を経て、13社が採択されました。比較的大所帯のプログラムでしたね(笑)。
— そもそもなぜ福岡でOnlabプログラムを開催することになったのでしょうか。
松田:そもそも福岡の高島市長はスタートアップの支援に積極的です。例えば福岡市の箱崎にスマートシティを作るFUKUOKA Smart EASTも、熱心に推し進めています。
そこにビジネスチャンスを感じて、デジタルガレージも福岡で基盤作りをしていたところ、福岡地域戦略推進協議会やFUKUOKA Growth Nextと懇意になり、Onlab FUKUOKAを共催することになりました。Onlabは事業を推進するプロジェクトマネージャー的な役割を担っています。
― 第1期で印象に残ったスタートアップの事例はありますか?
大木:シリコンバレーから参加されたPie Systemsです。元々デンマークの企業で、日本法人も設立しています。弊社の別部署からOnlab FUKUOKAの話を聞いたそうで、ちょうど日本展開を考えていたので応募されました。
Pie Systemsが持っていたのは、消費税の免税手続きをアプリ完結させるプラットフォーム。コロナ禍であまり話題になっていないのですが、世界的に免税手続きの電子化が進んでいます。日本でも2020年4月1日から免税手続きの電子化が始まり、2021年10月1日から本格的に移行する予定です。
― パートナー企業にもニーズがありそうなソリューションですね。
大木:マッチングしたのは、福岡県内の大型商業施設でした。当初免税手続きに関する要望は特に聞いていなかったのですが、Pie Systemsのピッチを聞いて、免税手続きに関する課題感を喚起されたそうです。
― 潜在的なニーズを喚起できるのは、プログラムに参加するメリットのひとつですよね。PoCはスムーズに進みましたか?
大木:一筋縄には行きませんでした(笑)。導入店舗が免税品のみを扱っているなら、スムーズにシステムを入れられます。しかし免税対象外の商品も扱っている場合は、免税か否かを判別するためのデータベースが必要でその整備が必要だと判明しました。DX推進によって既存ビジネスの課題が明確化されたのは、良い収穫だったのではないでしょうか。
松田:ちなみに、Pie SystemsはもうひとつPoCを行う予定なんです。
― そうなんですね。もうひとつのPoCはどのような内容でしょうか?
大木:このソリューションでさらに何か価値を見いだせないかと考え、FUKUOKAのプログラムに一緒に参加した購買データの分析サービスを持つTrue Dataと、人の流れを解析するソリューションを持つunerryのスタートアップ2社にお声掛けして、3社の座組を組成したんです。
3社のサービスを組み合わせ、訪日客の属性や購買データを元にデジタルマーケティングするソリューションにして、パートナー企業に提案しました。他のスタートアップと組み合わせることで、それぞれの価値以上の成果物ができた事例ですね。
― 他に印象的だった事例はありますか?
大木:電球型のスマートプロジェクターを開発しているDouZenです。このプロジェクターをインターネット回線に乗せることで、動的データのリアルタイム投影ができるのが特徴です。DouZenもシリコンバレーのスタートアップですね。
最初に関心を持たれたのは富士通でした。富士通は、閉鎖的で電波が届きにくい環境で回線を補うローカルLTE回線の設備装置を、ちょうどリリースしたばかり(参考)。このローカルLTE回線にDouZenのスマートプロジェクターを載せて、閉鎖的な建物内で何かを投影してみようという話になったんです。
そこで留学生が多く在籍されている日本経済大学に協力いただき、緊急避難を要する災害を想定し、動的データを使った避難誘導の効果を測定するというPoCを計画しました。このPoCはコロナ禍で延期されていたのですが、最近再開の見通しがたちつつあり、九州大学箱崎キャンパスにある建物の閉鎖空間をお借りして実施する予定です。
― Onlab FUKUOKAと他のオープンイノベーションプログラムの違いは何でしょうか。
松田:3点ありまして、まずひとつはコンソーシアム型だということ。よくあるオープンイノベーションプログラムは、アクセラレーターの主催企業1社が、複数のスタートアップと組む形式と思います。しかしOnlab FUKUOKAは、複数のパートナー企業が複数のスタートアップと組むのが特徴です。組み合わせの数が多い分、事業創出の可能性は高くなると感じています。
次に社会実装にこだわっていること。今回、実証実験フィールド地域は特定していませんが、福岡市内の空き地や跡地等を使ってPoCができる利点は引き続きありますので、実装までたどり着くプロジェクトを1つでも多く組成したいなと考えています。
3点目が、よく誤解されがちなんですが、福岡に閉じたプログラムではないこと。それも、日本全国は当然として、海外からの応募が可能なことです。先ほどご紹介したように、昨年も海外スタートアップを採択しています。ぜひ多くのスタートアップから応募いただきたいです。
― プログラムに参加する際、何か注意点はありますか?
大木:本家シードアクセラレータープログラムのように壁打ちやメンタリングなど、スタートアップ自体の事業やソリューションに対するブラッシュアップよりも、大企業との連携プロジェクトの組成に注力している点です。起業前の事業アイデアをブラッシュアップのために参加されると、期待外れになってしまうかもしれません。もちろん、事業アイデアそのものをディスカッションすることはありますが、現時点のソリューションを協賛企業の課題やソリューションに掛け合わせ、企業とのオープンイノベーションを作るイメージです。
松田:事業のブラッシュアップは10年間続けているOnlabが得意としているところですが姉妹プログラムのOnlab FUKUOKAはプロダクトも固まり、売上が立ち始めたフェーズやプロダクトをこれから拡販していくフェーズのスタートアップためのプログラムです。Onlab卒業生との相性もよいですね。
― DXを推進していく上で、九州・福岡という地の魅力と課題を教えていただきたいです。
大木:九州の経済規模は日本経済の約1割を占め、スウェーデンやトルコ、タイと同程度のGDPがあります。そして現在も成長している途中です。しかしこの経済規模にも関わらず、ITリテラシーの向上やDX推進には課題が多いのが現状です。
ですので地場の中小企業を巻き込んだDXの底上げも、裏テーマになりそうな気がします。地域経済を活性化させるソリューションは、切り口として面白そうですね。
― 地場経済のDX底上げという話は、第1期でもあったんですか?
大木:第1期では出てこなかった話ですね。第1期は試行錯誤を行いながらのプログラム運営で、議論がそこまで至りませんでした。
しかし第2期はある程度土地勘もつき、より具体的な課題解決を期待する大企業が参画されています。今回の協賛企業はよりコミットを高めて、実行性の高い成果を出したいと考えている企業が多い印象です。
松田:今期は、福岡出身・九州大学卒業の大木が福岡に駐在して、より機動力を上げてプロマネに注力します。地元出身プレイヤーがいることは、地場企業にとってプラスに働くはず。より本質的な成果を出せる土壌が整っていると思いますよ。
― こんなスタートアップに応募してほしいという要望はありますか?
大木:全国から参加できるプログラムとなっているので、福岡での展開を考えている企業は、地場のパートナー企業から歓迎されると思います。福岡から東京や世界に向けて事業展開するイメージで捉えていただけるといいかなと思います。
松田:New Normalと言われる世の中で、さまざまな事業者が今後の価値提供を模索しており、福岡の企業も困難に直面しています。ポジティブな事業アイデアやソリューションでこの状況を鮮やかに変えるスタートアップに、ぜひ応募していただきたいです。
社会実装にもこだわるプログラムなので、ソリューションを使って実現したい事柄や、事業創出の先に見ているビジョンなどを具合的に語っていただけると、一歩前進しやすいと思います。
― 東京や海外から参加する企業は、福岡に足を運ぶ機会は多いのでしょうか。
大木:福岡の企業以外はオンラインを活用しますので、足しげく福岡に通っていただく必要はありません。第1期もオンラインでコミュニケーションを取っていましたが、特に問題はありませんでした。私が現地のハブとなり、必要に応じてオフラインでプロジェクトを推進できればと考えています。
―最後に、第2期に向けての意気込みや、スタートアップへのメッセージをお願いします。
大木:経済規模が拡大している九州・福岡に、ぜひ新しい風を吹き込んでいただきたいです。そして創出したソリューションを東京や世界に逆輸入するエコシステムを、皆さんと作っていきたいと思います。
松田:普段ならドアノックしにくい大企業と接点が持て、スピード感を持って商談を進められるのは、Onlab FUKUOKAプログラムの醍醐味です。一度入り込めばさまざまな企業に横展開しやすいのも、地域経済の特徴。あえて東京のレッドオーシャンではなく、競合の少ない九州・福岡で事業展開することも考えつつ、応募いただけたら嬉しいです。
(執筆:金指 歩・編集:pilot boat、Onlab事務局)
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