2023年10月06日
Open Network Lab (以下「Onlab」)は、日本初のアクセラレーターで、2010年4月のスタートからこれまで数々のスタートアップをサポートしてきました。そんなOnlabからはこれまでにgiftee、POPER、FRIL、WIHLL、SmartHRといった、上場を果たした、または資金調達を経て成長し続けるスタートアップを輩出しています。今回はスタートアップにとってなぜMVP開発が必要なのか、スタートアップが陥りやすい事例や見誤りがちなユーザー指標について解説します。
【 筆者プロフィール 】
Open Network Lab HOKKAIDO プログラムディレクター 小田 貴志
新卒でNHKにディレクターとして入局し、報道や自然などのドキュメンタリー制作を手掛ける。旅行業界でインバウンドビジネスディレクターを経て、エンジニアに転身。要件定義から設計、実装、デザインまで幅広い範囲に従事。その後、家庭料理シェアやフードデリバリーなどのスタートアップ立ち上げを経験し、再びエンジニアへ。2022年より「Open Network Lab HOKKAIDO」の運営に参画。得意領域はビジネスの仮説検証、プロトタイプやMVPの構築、UI/UXデザイン。
そもそもMVPとは Minimum Viable Product の頭文字をとったもので、直訳すれば「(顧客に提供できる)実用最小限の製品・サービス」を意味します。一つのβ版を作ることが目的ではなく、PMF達成に向けて重要な仮説を検証していくプロダクト開発のプロセス。これがMVPの真意です。
MVP開発において目指すべきは「PMFの達成」です。ここでPMFとはProduct Market Fitの頭文字を取った言葉であり、市場に存在する課題をプロダクトが解決できている状態を指します。
さて、MVP開発のプロセスにおいては、「『コレ』を考えているのですが……」「『コレ』で悩みは解決しますか?」「『コレ』にお金を払ってもらえますか?」といった質問を顧客に尋ねることになります。まさに「コレ」を探すことこそが、MVP開発です。
「コレ」を顧客に説明するためにスタートアップは、LP、紙、資料、動画、モックアップ、設計図、3Dモデルなどを用意しなければなりません。MVP開発は、顧客が熱狂する「コレ」を最小リスク・最短時間で探っていくプロセスと言ってもいいでしょう。
それでは、なぜMVPは重要なのでしょうか。
ある製品を開発し、市場に投入したからといって、必ずしも顧客の「熱狂」を生むわけではありません。むしろ怖いのは、中途半端に熱狂が生まれマネタイズに成功してしまい、広範囲にユーザー獲得ができず企業が持続的に成長できない状況に陥ることです。
ここで「MVP開発を無視した失敗例」を紹介させてください。かつて私は日本酒マリアージュアプリを開発したものの、開発した後で「2杯目以降はどうでもよくなる」「酔ったらアプリは使わない」といったフィードバックを得ました。この情報を得て、サービス開発はやり直すことになったのですが、実はこれらの情報は開発に取り掛かる前のヒアリングで十分入手できる情報でした。つまり、私は開発しなくていいものを開発してしまったのです。事前にヒアリングを行った上でMVPを開発していれば、このミスは防げるものでした。
逆にMVP開発に成功したと言われているサービスが「マインクラフト」です。マインクラフトは今でこそ様々なことができるマルチバース的なゲームとなっていますが、初期の初期は1人が6日間コーティングして作成したただけのもので、できることといえばただブロックを置くだけでした。しかしマインクラフトがやりたいことを伝えるという意味では、これは十分なMVPだったのです。そこからユーザーと向き合い続け、今では世界で最もプレイされるゲームに進化しています。
このように、MVP開発を上手くこなさなければ無駄な時間を過ごすことになりかねません。逆にMVP開発にしっかり取り組めば、プロダクトの磨き込みが効率よくできるようになるでしょう。
このような事態を防ぐために有効なのがMVPです。ペインを感じている顧客に早めに解決コンセプトやプロダクトのイメージを提示し、何度もフィードバックを受ける。それにより、顧客の「本当の熱狂」を探し出せるのです。
MVP開発における「過剰&無駄な開発が起きやすい状況」には、例えば以下のようなものが挙げられます。
● 課題、顧客、価値、ソリューションの検証が不十分(顧客の声を聞いていない)
稀に「自分自身が課題感をわかっているなら、顧客の声をわざわざ聞かなくてもいいのではないか」という声が届きます。しかし開発者がたまたま特殊な状況に置かれているといった可能性を忘れてはいけません。また自分以外もその課題を感じているのか、ソリューションは自分が考えているアイディアで適切なのかも確認する必要があります。そのためMVPを開発し、顧客の声を聞かなくてはならないのです。
● 使う場面・現場を知らない(リサーチ不足)
顧客が使えるソリューションは用意したものの、顧客の現場にマッチしていなかったり、顧客が使う場面を想定していないというケースは少なくありません。こういったケースでは、顧客がMVPに好反応を示しても、実際に現場では使われないといった事態に陥ってしまいます。ちょっと現場を覗いておくだけで解決できる問題も少なくありませんので、可能な限り現場には実際に足を運んでみるのがいいでしょう。
● 恥ずかしさ(正式なものでないと販売できないという思い込み)
「ちゃんと作ったわけではないものを顧客に見せるのは恥ずかしい」という声もよく聞きますが、そんなことはありません。顧客にMVPであることを説明し、適切なフィードバックを受けるようにしましょう。
● 不確かさの多い検証作業よりも目に見える開発に没頭(作れてしまうチーム)
これはエンジニアやデザイナーがいるチームに生じやすいミスと言えます。プロダクトをどんどん作れてしまうが故に顧客からのフィードバックを疎かにしてしまうのです。必要に応じてMVPを実施し、無駄な作業をしないように心がけましょう。
MVPは何を目指して開発すればいいのでしょうか。上記では「(顧客の)熱狂」という単語を使いましたが、何をもって顧客は熱狂していると言えるのでしょうか。この点、定性的にでも定量的にでもゴールのイメージを掴んでおくと、MVP開発が成功したか否かを判断しやすくなります。
定性的・定量的それぞれで、下図のような状況にあれば「PMFを達成=MVP開発は成功」と言えるでしょう。
シード期においては市場にプロダクトが投入されていないケースがほとんどです。その場合「定性的・定量的な熱量は測れないのではないか」と疑問をもつ方もいるでしょう。しかし商品をローンチしていないMVPでも、熱量の計測は可能です。例えばプロダクトの写真を見せただけでポジティブな反応があった、事前申し込みがあった、テストユーザーの継続率が高いといった事象が起きていれば、ユーザーは熱狂している可能性が高いと言えます。
私が「熱狂」している例を挙げましょう。私は最近、ChatGPTやClipDrop、Canva、Figmaといったプロダクトを毎日のように使っています。何回も継続してプロダクトを使う状態を「リテンションしている」「リピートしている」と表現しますが、このような状態は「ユーザーが熱狂している」と言えますし、同時に「PMFを達成している」と言えるでしょう。
またMVP開発においては、初期は定性的に、開発が進むにつれて定量的に熱量を測れるようになるケースが一般的です(下図参照)。
ユーザーの熱量を定量的に示す指標の例としては、NPS(ネットプロモーターズスコア)、40% rule、Engagement、Retentionなどが挙げられます(下図参照)。
プロダクトのライフサイクルが伸びている現代においては、瞬間風速的な指標だけでなく、継続性や粘着性(スティッキネス)に着目する必要がある点には注意が必要です。例えばダウンロード数やいいねの数、売上は、広告を増やせば一時的に増やすことができるので、瞬間風速的な指標の可能性があります。他方でリテンション率や紹介率は粘着性に関する指標と言えるでしょう。少人数でもいいので、顧客から愛されていることが分かる指標を追うことが、MVP開発やPMFの検証においては重要です。
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今回は、MVPの重要性と開発で目指すべきGOALについて解説しました。事業検証の中で本当に顧客の熱量を測れているのか、他社スタートアップ事例を聞きたい、事業について相談したい場合は、事業相談会を実施していますので、ご質問があればお気軽にお問い合わせください。
(編集:pilot boat 納富 隼平 / Onlab事務局)
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