2022年06月01日
Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的にSeed Accelerator Programを2010年4月にスタートし、これまでに数々のスタートアップをサポートしてきました。今回ご紹介するのはOnlab第24期で審査員特別賞を受賞した株式会社Ex-Work 代表取締役CEOの馬渕 太一さんです。
馬渕さんは新卒で入社した三井物産では貿易業務を、2社目のA.T.カーニーではさまざまな業界の大企業に向けた事業戦略の立案を担当。多くの企業で組織や個人の生産性やモチベーションの低さに悩む現状を目の当たりにし、テクノロジーの力で日本の働き方に価値を提供したいと2020年7月に株式会社Ex-Workを設立。人々が主体的にジョブを選択して、適切な処遇を得られるようにするために、社内のジョブの情報を整備するジョブマネジメントクラウド「Job-Us」を開発します。
スキルや経験を活かせる人材を増やし日本社会の活力を取り戻したいと語る馬渕さんに、Job-Usを立ち上げた当時のエピソードやOnlabへ参加したきっかけなどをオンラインで伺いました。
< プロフィール >
株式会社Ex-Work 代表取締役CEO 馬渕 太一
京都大学経済学部 経済・経営学科卒業。 三井物産株式会社にて、化学品関連の貿易ビジネスや子会社のマネジメントを行う。 経営コンサルティングファーム A.T. Kearney株式会社にて、事業戦略・組織戦略立案などのプロジェクトに従事。 2020年7月に株式会社Ex-Workを創業。
― Job-Us(ジョブアス)の概要について教えてください。
Job-Usは、ジョブを基盤とした組織設計や人材マネジメントを実現するために、社内のジョブの情報を整備するクラウドシステムです。現在、日本では新卒一括採用や終身雇用、年功序列を特徴とする「メンバーシップ型雇用」から、企業が事業戦略を達成するために必要な職務(ジョブ)に適したスキル・経験を持つ人材を採用する「ジョブ型雇用」への移行が進みつつあります。海外では主流であるこのジョブ型雇用には「ジョブディスクリプション」と呼ばれる職務(ジョブ)の定義書が社内の全てのポジションにおいて必要です。しかし、その作成はたやすいことではありません。
まず、現場での負荷を考慮して人事担当者や外部のコンサルタントがジョブディスクリプションを作成しても、現場で納得感を得られず運用されないことが多いんです。Job-Usを使うとライブラリから該当項目を選択して、カスタマイズしながら作成します。よって、忙しい現場の社員でも比較的簡単に作成できるようになります。
次に、ジョブディスクリプションは作成者によって内容がまちまちになりやすいので人事制度の基盤にできないし、修正する手間もかかっていました。Job-Usではジョブディスクリプションを5000個以上のライブラリから選択したり社内のジョブの配置を俯瞰できたりするので、質と粒度の揃った分かりやすいジョブディスクリプションが作成できます。さらに、Job-Usではジョブディスクリプションのファイルがクラウドで一括管理されるので、非効率なファイルのやりとりや管理作業から解放されます。
― この事業を始めた経緯をお聞かせください。
もともと私は仕事や働き方といったテーマに非常に強い興味がありました。学生時代はゆくゆくは自分で事業を立ち上げたいと思い描いていたのですが、そもそも世の中にどんな会社や仕事があってどんな人たちが活躍しているのかを知りませんでした。そのため、大企業やベンチャー、外資系など約20社でインターンシップの経験を積みました。新卒で入社した三井物産では、海外から原料を調達して国内メーカーに販売する貿易業務を行う傍ら、「物産アカデミー」という挙手制の教育制度でテクニカルスキルやコンセプチャルスキルなどのプログラムを受けました。後にも先にも、50講義全てを受けたのは私だけなのではないでしょうか(笑)。それくらいビジネスに役立つスキルを学ぶことが好きでした。
一通りの仕事を任せていただいたおかげで自分の力で回せるようになったので、更なる成長を求めて戦略コンサルティングファームのA.T.カーニーに転職しました。そこでは、さまざまな業界の大企業の組織変革プロジェクトに携わり、事業の仕組みを変える提案を行いました。コンサルタントとして大企業を見ていくうちに、経済成長率が低く一人あたりの生産性が伸びていない日本の雇用システムや組織に対し、痛烈に課題を感じました。テクノロジーの力を活用してこの問題を抜本的に解決したい、また、能力を発揮する人を増やすことで日本社会の活力や世界での競争優位性を取り戻したいと考えるようになり、2020年7月にEx-Workを設立し、その後、Job-Usの事業をスタートしました。
― 馬渕さんはなぜ、Onlabへ参加しようと思ったのですか?
Onlabを知ったのは、Onlab JournalでSmartHR代表の宮田さんの記事を読んだのがきっかけでした。プログラム期間中に11回ピボットしてクラウド人事労務ソフトのアイデアを見つけたと読んで「すごい!」と。当時、弊社ではジョブ型雇用に向けたHR系SaaSをやるとは決まっていましたが、プロダクトはα版を開発中でした。会社設立後の半年間はコンサルティングなどをやりつつ、事業のアイデアを仮説検証していましたね。その後、本格的にプロダクトを磨いていくタイミングで、SmartHRさんのように成長したいと思い、第24期にエントリーしました。
― 実際にOnlabへ参加してみて、どのような気づきがありましたか?
「誰の何の課題を解決するか」をしつこいほどに叩き込まれました(笑)。これはスタートアップではよく言われることですが、その解像度・深さをどこまで突き詰められるかが勝負になります。事業を立ち上げたばかりの頃は全てが荒削りな状態ですが、深堀りしながら徐々に解像度を上げていく。メンターの古川さんに「具体的に誰の課題ですか」「具体的な課題は何ですか」と何度も投げかけていただいたおかげで、すでにジョブ型雇用に移行している、またはこれから移行したいと考えている大企業や中小企業50社以上にヒアリングしながら、Job-Usのあり方をより具体的に固めて開発していきました。私たちが軸にしたのは、お客様がどれくらい困っているかというペインの深さと、サービスのマネタイズの2点でした。
― 馬渕さんは第24期のDemo Dayで審査員特別賞を受賞していらっしゃいます。どのような点が評価されたとお考えですか?
大変有り難いことですが、この「誰の何の課題を解決するか」に徹底的にこだわったことが伝わったのかなと思います。また、審査員の方からのフィードバックにもありましたが、日本の雇用に関する課題は特定の業界だけでなく、日本人のほぼ全員が認識しています。それを変えていこうとしている気概をご評価いただけたのかと考えています。
― 3ヶ月間のプログラム中、同期のスタートアップとはどのように過ごしましたか?
コロナ禍によってオンラインでのプログラムが多かったのですが、同期とはときどきリアルに会って話すことで仲良くなりました。「皆さんが進捗しているから自分も頑張ろう」と奮起したり、「皆さんもこういうところで苦労しているんだ、自分たちだけじゃない」と励まされたり。同期とはプロダクトの進捗や顧客の有無といったステージが近かったので「これからどうやって事業を拡大していこうか」など、似たような課題を相談し合ったり一緒に乗り越えたりしました。
同期は普段なかなか知り合えないような仲間でしたね。それに、起業家は事業に対する悩みや葛藤があっても会社の仲間に言いづらいこともあるし、どうしても視点が異なることもあります。Onlabを介して知り合った起業家同士、プログラムを卒業した後も腹を割って話せるのは心強いですね。
― 現在のJob-Usについて教えてください。
最近では、数千名規模の企業にもご利用いただけるようになり、お客様から積極的にフィードバックをいただきながらプロダクトのブラッシュアップをしてPMF(プロダクトマーケットフィット)を目指しています。従来の働き方からシフトするのは容易ではありませんし、大企業でジョブの情報を整備していくことは少なくとも半年はかかるプロジェクトなので、焦らずに伴走しながら進めていきたいです。
― Job-Usを利用したいというお客様はどのような業界が多いですか?
これまではジョブ型雇用と相性の良いIT系や外資系製薬会社などが多かったですね。最近では、建築業界をはじめとするドメスティックな産業の方々にもお使いいただいているので、日本でもジョブ型雇用の流れが広まってきていると感じています。
― 現在、御社にはどのようなメンバーがいらっしゃいますか?
コアメンバーは5名、その他の副業・業務委託メンバーは4名です。プロダクトサイドでは、マネーフォワードで初期のプロダクトを手掛けた経験のあるCTOやリードエンジニア、他のHR系 SaaSの共同創業者だったプロダクトマネージャー。ビジネスサイドでは事業開発や営業を担うメンバー、人事ではコンサルファームや外資系企業で10年間以上人事を担ってきたエキスパートがいます。
弊社には「日本の社会を良くしたい」「お客様に貢献したい」という精神を持つメンバーが多いです。また、このフェーズは1人で突き進んで頑張るというよりも、チームとコラボレーションしながらより良い価値を生みだそうとする方や本質を突き詰めていける方が弊社にフィットすると思います。現在、メンバーをどんどん増やしていくというフェーズではありませんが、Job-Usのプロダクトや事業の展望に興味がある方や、課題に対してチャレンジしたい方がいたらぜひお話しさせていただきたいです。
― 会社の3つのバリュー「Integrity」「Challenge」「All for One」というものがありますが、どのような経緯で決めてたのでしょう?
メンバーそれぞれがバリューを持っていたので、社内で話し合って「これは絶対に外せない」というところまで絞り込んで決めました。スタートアップに必要不可欠なチャレンジ精神と同じように、弊社が「Integrity(誠実さ)」にも重きを置いているのは、成長目標だけでなく「私たちの存在意義は何か」「本質的な価値は何か」を大切にしながら一緒に成長し、事業を拡大していきたいと考えているからです。
― 今後、Job-Usをどのように進化させたいとお考えですか?
私たちは「日本の雇用をアップデートする」をミッションに掲げています。新卒一括採用や年功序列、終身雇用といった高度経済成長期に定められた仕組みには大きな課題が2つあると考えています。1つは人材の流動性が低いこと、もう1つは給与が安いこと。先進国対比で言うと日本人の給与はアメリカ人の半分近い職種もあります。この2つを解決していくプロダクトにしていきたいです。
そのために、Job-Usで蓄積されていくジョブデータを給与のデータと紐付け、ジョブに対して適正な給与額が提示されるような仕組みを作りたいです。求められる資質や職務内容が明確なジョブと人材をマッチングする「適所適材」を実現し、組織戦略の中核を担う基幹プロダクトとして展開していきたいです。
― 確かに、高度かつ専門的な知識や経験が必要で希少性が高い仕事を担っている方が「海外の企業で働いていたらもっとお金をもらえるから」と日本を去るケースも聞きますよね。
日本の企業はAIエンジニアやデータサイエンティストといった優秀な人材に見合った給与を出せないので、彼らは海外に行ってしまいます。非常にもったいないですよね。なぜ日本で人材のスキルや実績に対して給与が低いのかというと、日本でも業績が良い企業はあるので単に「儲かっていないから」というわけではなく、「マーケットが社内で閉じているから」なんです。社内の給与水準だと、公正な経済原理が働きません。マーケットがオープンだったら経済学でいうところのアダム・スミスが唱える「神の見えざる手」が介入されるので、適正な給与額になっていきます。それは人材においても全く同じことで、オープンさが確保されると公平性が高まっていきます。現在の日本では1社1社が閉じた給与体系になっているので、社内で横並び同一の給与水準になっています。それがオープンになれば、価値の高い仕事をしている人材にさまざまな企業から需要が集まるので、価格も上がっていく経済原理が働くようになります。
― 日本の雇用をアップデートするために、今後の展望を教えてください。
Job-Usを、日本の雇用の流動性と給与の向上に貢献するプロダクトに進化させていきます。非常に大きなテーマに挑んでいるので、これから更なる可能性や新たな方向性が無限に出てくると考えています。また、事業としてPMFを達成したら積極的にメンバーを増やすなど、事業拡大に向けて具体的なノルマを達成するようにアクセルを踏んでいきます。
― これからOnlabに参加したいと検討している起業家の方々に向けてメッセージをお願いします。
スタートアップにはまだ事業基盤が確定しておらず、方向性に検討の余地がある中で試行錯誤しながらコアバリューを固めたいと考えている方がいらっしゃると思います。Onlabに参加するとかなり手厚いメンタリングやフォローを受けられます。また、起業家の仲間と出会って切磋琢磨し合う機会もあるので、事業のブラッシュアップにもってこいのプログラムです。日本にはさまざまなアクセラレータ・プログラムがありますが、Onlabの手厚さや熱心さに勝るところはないと断言できるのでオススメですね。
(執筆:佐野 桃木 写真:Taisho 編集:Onlab事務局)
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