2021年12月13日
Open Network Lab(以下、Onlab)は、「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。シリーズ「Meet with Onlab grads」では、プログラムに採択され、その後も活躍を続けるOnlab卒業生たちのリアルボイスをお届けします。
今回紹介するのは「道なき“未知”を切り拓く 不整地のパイオニア」株式会社CuboRex(キューボレックス、以下「CuboRex」)です。物理的な移動負担が多いものの、各地で条件が異なるために、一定のソリューションでは課題が解決できない不整地産業。そこでCuboRexは、レゴのブロックのようにパーツを組み合わせることで、どんな不整地でも使えるようになる走行に適した製品を開発しています。不整地産業の特徴やCuboRexの開発経緯まで、代表取締役の寺嶋さんにオンラインでお話を伺いました。
※オフィスと製造現場が合体したCuboRex社内を取材した記事は『DGLabHAUS』に掲載!
【スタートアップ ものづくり細見 Vol.1】 不整地産業の課題を「電動の足」で解決する株式会社CuboRex
< プロフィール >
株式会社CuboRex 代表取締役 CEO/CTO 寺嶋 瑞仁
1993年生まれ.和歌山県有田郡出身。和歌山高専知能機械工学科,長岡技術科学大学機械創造工学課程卒業。2016年株式会社CuboRex設立。学生時代からロボコンに精力的に打ち込み、全国準優勝など多数。レスキューロボットの研究をベースに、2017年James Dyson Award国内第3位。国際トップ20入賞。総務省異能ジェネレーションアワード「その他業務実施機関がおもいつきもしない分野」部門賞等受賞。
― CuboRexの創業経緯を教えて下さい。何でも最初は、不整地産業をターゲットとして製品を開発していたわけではないと聞きました。
私は高等専門学校を卒業後、長岡技術科学大学に進学しました。当時の専門はレスキューロボットやクローラーロボットの開発です。福島第一原発の事故が起こった際に、施設中の状況を探索するロボットがあったことを覚えている方もいる思うのですが、私はそのロボットの開発に従事していました。CuboRexはその研究チームから独立した会社です。
CuboRexを語るために、まず高専時代の話をさせて下さい。私は高専時代にロボコン(全国高等専門学校ロボットコンテスト)に度々参加していました。ただロボットの部品は高専生にとっては非常に高価で、部品代を稼ぐためにアルバイトをする必要があったんです。私の出身地はみかんが産地の和歌山県有田地域だったこともあり、みかん畑でバイトし始めました。余談ですが、私の実家はお寺で、今も私は僧侶としても活動をしています。経営者であり、技術者であり、僧侶というのは珍しいですよね。そのアルバイト先は実家の檀家さんのみかん畑でした(笑)。
なぜみかん畑だったかと言うと、時給がいいんです。当時普通のアルバイトが時給600円くらいだったのですが、みかん畑は1200円。じゃあなんでみかん畑の時給がいいかと言うと、想像以上に重労働なんです。みかん畑は段畑と言われる不整地で、車なんて入れない。だから20kgにも及ぶ、収穫してカゴに入れたみかんを人が運搬するんです。このみかん畑は傾斜地ということもあって、これが実に大変。腰は痛くなるし、ずっと解放されたいと思いながらみかんカゴを運んでいました。後から考えると、これが不整地産業における私の最初の体験です。
時は移り、大学に進学します。実は私は大学で3社起業していまして、その3社目がCuboRexです。長岡技術科学大学は新潟にあって、冬は積雪が激しく、自転車でも車でも徒歩でも移動が厳しい。なので雪でも移動できるモビリティが欲しくて、その製作のためにCuborexを設立しました。そのときに試作したのがこちらの雪上を走行するプロダクトです。
これ自体は量産や法律等の問題があり、結局日の目を見ることはありませんでした。ただそうなると会社の経営は厳しくなってきます。なので、今ある技術で売れる製品を作ろうということになり、まずは量産が可能で売れる製品を受託で作ろうと。ちなみにこのときに作ったのが後の「E-cat kit」です。
その後、色々なところに売り込みに行ったのですが、特に反応がよかったのが農業や土木建築業でした。「工学ベースではないところからも引き合いがあるぞ」と、ニーズを確信した瞬間です。お客さんに話を聞きながら、農業や土木、雪国の共通項はなんだろうと考えたら、「あ、これ全部『不整地産業』だ」と閃きました。私が最初に体験したみかん畑も不整地産業で、確かに大変だったなと。
― 不整地産業の課題として、どんな共通項があるのでしょう。
不整地産業の課題はまず、物理的な移動負担が大きいこと。環境や季節によって異なる機材が必要なのも特徴で、例えば、みかん農家とひとくくりに言っても、農地の状況や収穫時期によっても収穫運搬の方法はバラバラです。同じ環境はないので、ある程度は現場に合わせて柔軟に開発しなくてはならない。かと言って、運搬機材を購入するのもコスト負担が大きく、ましてや、自分で開発するのはもちろん厳しいわけです。
― そこでCuboRexの出番というわけですね。
その通りです。CuboRexの製品は全て、レゴブロックのように組み合わせに自由度がある。つまり、現場に合わせて必要な部品を必要に応じて組み合わせるだけで、実用的な不整地用ロボットが出来上がるんです。
例えば「E-cat kit」自体は手押し一輪車に後付けするシステムですが、多少形状が違っても全ての手押し一輪車に装着できるようになっています。上の写真はキャベツの収穫用にCuboRexのモジュールを組み合わせたものですが、農家の方が1時間ほどで組み上げることができました。
― CuboRexのシステムを使えば、どんな不整地の移動もできるようになると。
そうですね。不整地産業は特に、移動にかかる課題が比重として大きい。どんなにすごいマニピュレーターやロボットアームを作ったとしても、そもそも現地に向かえなければ意味がないですからね。
― CuboRexは既に製品が存在しました。どんなニーズでOnlabに参加しようと思ったのでしょうか。
おっしゃる通りOnlabに応募したタイミングで、CuboRexの製品は量産販売段階でした。とは言ってもそれは顧客の課題を解決するソリューションではなく、部品単位としてで、市場に定着させていくという意味では、まだまだ打ち手を模索している状態でした。
CuboRexの最終目標は、不整地産業で働く方々が、自分で必要なものを作れるようになること。しかしそれを前提とすると当時の私たちの製品は、研究開発員向けだったんです。農業大学に通っている方や機械に関する知識がある方は使えますが、まだまだ一般の方が使うには難しい。言ってみれば、部品だけを売って「自分に最適なスマホにして下さい」というようなものです。実際に不整地産業で課題を持つ方たちに訴求できるものではなかったし、訴求の仕方もわかっていませんでした。そういったものを学ぶために、Onlabに興味をもったのです。
― Onlab期間中はどのように過ごしましたか?
まず今までは「部品の売り切りモデル」だったので、「ソリューションのサブスクモデル」の設計に取り掛かりました。実際に不整地である太陽光発電システムの現場で、デモ機を試験したり、従来の火力発電システムの管理方法の確認や特定業界向けにユーザーヒアリング等をしていました。
Onlabで学んだことはいくつかあって、1つ目は「マーケットの見方」です。私はこれまで、ものづくりをメインに仕事をしていたので、あまり市場と向き合ってこなかったんです。市場調査と言っても「最低限の市場はあるかな。じゃあ、やるか」くらいの、正直言い訳レベルでしかやってきませんでした。Onlabでイチから教えてもらって、市場調査の意義をかなり正しく理解しました。メンターだったOnlabの佐藤さんには感謝していて、よくあんなに何も理解していなかった自分に根気よく付き合ってくれたなと思います。
同時に「相手に応じた提案の仕方」も学びました。繰り返しになりますが、CuboRexは顧客によって使用方法が異なります。つまり顧客ごとに価値を感じるポイントが違うんです。なので顧客ごとに提案の仕方を変える必要があります。今まではそれがあまりわかっていなかったんです。私が技術者なこともあって「こういうことができます」と、いつも技術ベースでの一方的な提案になっていました。それがOnlabで学ぶことで、今では「こういう価値があります」という価値提供の提案ができるようになったんです。この考え方の転換は大きかったですね。
この経験はピッチにも活かされています。私は他人にとってわかりやすい資料を作るのがとてつもなく嫌いで、プレゼン資料を作るのが全業務の中で一番苦手なんです(笑)。苦手なのは今でも変わらないのですが、相手のことを考えて資料をつくるという視点を覚えてからは、事業に取り組む視座が一段あがった気がしています。
― 「誰に対してこれを伝えるから、こういう言い方にする」という考え方は、顧客向けの話でもピッチでも同じですよね。
― CuboRexの今後の展開を教えて下さい。
CuboRexが目指しているのは「現場で貢献できるパッケージ」です。今のCuboRex製品はまだレゴブロックのパーツを提供している状態。でもレゴブロックは箱(パッケージ)で買うのであって、パーツでは通常買いませんよね。なので「これを使えば課題解決になる」というパッケージの提供に力を入れていきたいです。パッケージの提供が実現すれば、欲しいもが作れる不整地産業の方も増える。最終的に不整地産業において、利用者が自身自身で欲しいものを作って利用することが当たり前の世界になることがCuboRexの願いです。
ただその実現のためには、現場とソリューションのマッチがまだまだ不十分。製品を使ってくれる方は増えてきましたが、ちゃんと産業として効果が出て、出し続けられる状態にならなくてはいけません。ねこ車電動化キットである「E-cat kit」は、その完成形の1つ。他の課題に対しても、部品としてしっかりとプロダクトマーケットフィットを達成し、しかもそれが横展開につながるような形で提案・提供していきたいと思います。
― E-cat kitのような完成形を増やしていくということですね。
そうですね。ただE-cat kit自体は作業をサポートするものなので、自動化にも取り組みたいと考えています。運搬作業の自動化をはじめ、不整地産業の自動化がCuboRexの次の野望です。
― 寺嶋さん、ありがとうございました!
(執筆:pilot boat 納富 隼平 編集:Onlab事務局)
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