2022年05月27日
Open Network Lab(以下、Onlab)は、「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。シリーズ「Meet with Onlab grads」では、プログラムに採択され、その後も活躍を続けるOnlab卒業生たちのリアルボイスをお届けします。(10月末までOnlab第26期生を募集中です!)
今回お話を伺ったのは、貸切バス配車・運行管理サービス「busket」を運営するワンダートランスポートテクノロジーズ株式会社(以下「WTT」)代表取締役CEOの西木戸秀和さん。WTTはOnlab24期Demo Dayの最優秀賞も獲得しているスタートアップです。
WTTの創業は2012年(創業時の社名は「サメ株式会社」)、busketの公開は2019年。創業から10年、サービスリリースから3年も経ってOnlabに参加した西木戸さんは、他の参加者とは異色の経歴となっています。
そんな西木戸さんに、busketのサービス概要はもちろん、開発の経緯や、ある程度会社が成熟してからOnlabに参加した理由について伺いました。
< プロフィール >
ワンダートランスポートテクノロジーズ株式会社 代表取締役CEO 西木戸 秀和
福岡県大牟田市生まれ。リクルートHR事業、デジタルマーケティング事業を経て、音楽領域、アート領域でのイベント開発支援、空間音響デザイン事業開発に携わる。2012年WTTを創業し、エンタテイメントとインターネットの交差点の事業を開始。様々な地域への移動の問題に向き合ったことから、2018年より移動の自由を叶えるために交通領域にフォーカスし会社運営を行う。
― WTTが運営する「busket」の概要を教えて下さい。
busketは、貸切送迎バス・シャトルバスのマッチングプラットフォームです。貸切バスは部活やスクールバス、従業員送迎、商業施設等で使われており、年間の国内輸送人員は約3.3億人と言われています。これは飛行機の約3倍の数字です。これだけの利用者がいるにも関わらず、貸切バスには、発注者・バス会社双方に課題があります。
例えば、ある合宿を企画される方は、一度の合宿につきおよそ8時間のやりとりが発生しています。行程書類を作成して見積りを実施しなければならないのですが、これがかなりの負担となっています。バス会社が決まっても、発注者側で駐車場やドライバーの宿を予約しなければならず、当日はドライバーとのやりとりも対応しなければなりません。
一方のバス会社。稼働率は47%で、赤字率は40%と言われています。これはコロナ禍前の試算ですので、コロナ禍での稼働率は10%を切っているかもしれません。またタクシーと違って貸切バスは流しの営業もできないので、案件の獲得チャネルが少なく、またFAX・電話を元に必要な書類を作成しており、シフト調整や帳票業務は非常に非効率となっています。
これらの問題を解決するためWTTが開発したのが、「早く」「簡単に」「安く」貸切バスの発注者と運行会社のマッチングができるbusketです。やりとりは可能な限りオンラインで実施し、FAX・電話は不要、バスの運行に必要な書類も自動で作成できるシステムとなっています。
― 必要な書類とはなんでしょうか。
例えば、駅前にバスを配車するためには、その駅を管理している警察署に届け出が必要ですし、大型車両の通行には許可が必要な場所もあります。実はこれらの作業はバス会社がやっていると思われるかもしれませんが、実際に対応しているのは発注者で、バス会社はバスを動かすだけなんです。でも発注者だってそんな慣れない作業をするのは大変に決まっています。停車場所の許可申請やドライバーの宿、行程管理や書類の受け渡し等が積もり積もって、結果的に発注者は膨大な時間をかけて書類を作成している状態です。しかし、我々のbusketを使っていただければ、その時間や手間がかなり効率化されます。
― モビリティをマッチングすると聞いていたので、Uberのようなサービスを想定していたんです。でも課題が全然違いそうですね。
タクシーは流動的に稼働していてアプリでオーダーして、乗った瞬間に契約が成立しますが、バスは車庫に眠っていて契約が完了してようやく動き出すので、それぞれの課題は全然異なります。
― そこで登場してくるのがbusket。どのようなプロセスでマッチングされているか、教えてください。
まず「いつからいつまで」という移動の日程と、「どこからどこまで」という場所を発注者に入力してもらいます。そうするとWTTと提携している会社毎に、自動で時間と移動距離が計算される仕組みです。例えば「渋谷から軽井沢」という条件で「A社ならx kmでy時間」「B社ならz kmでs時間」といった具合で情報が出てくる。これが自動で見積りとなって、発注者に提示されます。オーダーしていただくと、運行に必要な書類が、自動で作成される、という仕組みです。
つまり「どの期間に、どこの車庫から、どの車両が、どのドライバーで、いくらで動けるのか」というのがbusketの基本的な考え方となっています。なので長距離遠征以外にも、ネットワークが広がるほどできることは増えていくんです。例えば、遠征だけではなく、子供の塾の送り迎え用に世田谷~三鷹を循環する運行車両を設定するといったこともできるようになります。
― 手作業で対応していた見積りや書類作成は全部自動になるんですね。
現在は自動で提示しています。しかし、単純な距離と時間の計算だけでなく、季節性や様々な諸条件などによって見積もりにゆらぎが生じるのが現実です。そのため、「この条件ならもうちょっと請求したい」「もっと安くても大丈夫だった」といったことが発生します。ですので今後は参考数値は自動で算出するものの、バス会社からは手動で入札してもらうような仕組みも検討しています。
「プラットフォーム! デジタル化! 自動化!」と単純な合理化を押しつけるのではなく、busketは感性をアシストするようなテクノロジーにしたいんです。計算作業・書類の作成・コミュニケーションの伝達速度を上げはするものの、意思決定や微調整をサポートするようなサービスにしていきたいですね。
― busketを利用している発注者にはどのような方が多いのでしょうか。
スポーツスクール法人や、貸し会議室を運営している会社が多いですね。なぜ貸し会議室かと言うと、例えば資格試験や株主総会等、大人数が集まる大きな会場を運営している会社に、駅から会場までのシャトルバスの運行に使用していただいています。また、修学旅行や大型イベント等で一度に大量のバスの発注手続きが必要な旅行会社等にもご利用いただいています。
― busketを利用することで、発注者はどの程度コストを減らせるものなのでしょうか。
ある法人は、3億円の予算に対してコストを30%削減できました。もともとは特に細かな見積り等はせずに単独のバス会社に発注していたそうなのですが、出発地に応じて別のバス会社に頼むだけでもかなりのコスト削減になったようです。
また、バスの利用はESG的にもインパクトがあります。自家用車ではなくバスでまとまって移動した方がCO2排出量が減るのは直感的にも理解できますよね。バス利用によって、どの程度のカーボンプライシングインパクトが発生したのかも可視化できるようなことも今後考えていきたいです。またbusketのネットワークに繋がっているバス3万台がEV化すれば、それは3ギガワット、つまり100万世帯(世田谷区の世帯数の2倍に相当)分の蓄電池ネットワークとなり、災害時において瞬時にバスを運行し避難確保するという移動手段とみるだけでなく、緊急時における擬似的なインフラを構築しうる要素にもなれると考えています。こういったESG的な観点にもサービスを生かしていきたいと考えています。
― busketを開発するに至った経緯を教えて下さい。
原体験は「音楽フェス」なんです。私は大学時代からDJイベントを開催したり、社会人になってからも空間音響デザインの仕事をしたり、音楽に没頭していました。それもあって地方で開催されるフェスにはよく行くんです。現地に行って帰るだけではなく、一緒に行った人とああだこうだと色んなことを話したりしゃべったりしながら帰る、そういう全ての体験がいいんです。
この体験はフェスだけではなく、旅行も、スポーツ観戦してからの深夜帰宅も、同じ趣味や目的の人たちが集まれば同じだと感じています。この体験をもっとよくしたい。もっと楽に便利にできる。フェスに関わっていたときにそう思って、起業に至りました。
最初に開発したのはBANANAという、フェスにみんなで行けるチケッティングサービス。その運営の中で、貸切バスの課題を知りました。フェスだけではなく、移動そのものにも価値があることは過去の経験からわかっていたので、この体験をもっと良くして、移動と空間の価値変容をしようとbusketの開発を始めました。
― サメ株式会社(ワンダートランスポートテクノロジーズ株式会社の変更前の社名)を設立してBANANAの運営を開始したのが2014年、busketの公開が2019年。そこから2022年にOnlabに参加しています。Onlabに参加するのは起業したての方が多いので、西木戸さんの経歴は非常に珍しいのですが、なぜOnlabに参加されたのでしょうか。
元々DGベンチャーズの前川さんに事業の相談をしていて、ESG文脈でOnlabのビークルがあるということを聞いたんです。前川さんに薦められたのもあって、Onlabに応募しました。
― そうだったんですね! 面談はどのように進みましたか?
私としては当然ESGやMaaS(Mobility as a Service)のお話をするわけですが、短い時間だし当時のプレゼンは洗練されていないし、貸切バスのことなんて皆さん知らないじゃないですか。なのでかなり不安だったんです。でも最終面談でデジタルガレージ社長の林さんが、「そういえば自分も学生時代にバスを借りていたな」って思い出してくれて、盛り上がったのを覚えています。まさかそんな話になるとは(笑)。
― 採択されてからはどのように過ごしましたか?
経営課題の絞り込みと、それに紐づく組織づくり、役割変更と権限委譲、その実行の検証をひたすらしていました。
― 組織課題に関することが多いんですね。
busketは2019年から運営していることもあって、サービスの基礎的な部分はある程度できていました。なので今後の課題はサービスを成長させるための組織づくり。会議体の整理や、権限委譲をどうするか、自分は何にフォーカスするのか、そのためにオペレーション・セールス・バックオフィスそれぞれで何をしなくてはいけないのか。それらのアクションは最終的に顧客満足向上につながっているのか。そういったことを進めていきました。そのための考え方について、Onlabのメンバーやメンターの方々にアドバイスをいただいていたんです。
― 印象に残っているアドバイスはありますか?
どれも参考になったのですが、やはり林社長やカカクコム社長の畑社長から、経営に対する視座の上げ方や財務的な計画性、IR等を意識した経営の考え方を直接インプットしていただいたのは糧となっています。上場企業の経営者からこういう話を聞けるのはいい経験でした。他にも実際の課題をフレームワークに基づいて分解したり、前川さんから「採用では能力も人柄も妥協するな」と叩き込まれたり、節々で大事なことをインストールしていただき最高な時間でした。
あとはピッチ資料ですね。Demodayの前に、毎日修正に付き合ってもらったのが思い出深いです。余計なものをそぎ落としてそぎ落として、削って削って……その繰り返しは本当に大変でした。最終的には明確なメッセージを築けたと思います。
― 今改めて振り返ると、元々のプレゼンは何がわかりにくかったのでしょうか。
私の悪い癖なのですが、抽象的なことと具体的なことを行ったり来たりしてしまうんです。抽象的なことから具体的なことにどんどん掘り下げていったかと思えば、いつの間にかまた抽象的な話に戻っている。そのメリハリづけがプレゼンをわかりにくくしていたんだと思います。プレゼンのブラッシュアップをする中で、自分の癖を理解してチューニングできたのは良かったですね。
― Onlabに参加した感想を教えてください。
そもそもですが、シード段階のスタートアップなんて、ちゃんと世の中でインパクトを出している会社からしたらまだまだ小さな存在です。であれば、スタートアップとして大事なことは、細かいことに拘るのではなく、今自分たちが向いている方向は正しいのか、事業の進め方はこれでいいのかといったことを確認してチューニングすること。そのためには時に外部のプロフェッショナルに協力を仰がなければいけません。それによって、スタートアップならではの事業の成長スピードをもとに、将来的なインパクトに向けてまい進できる環境がつくれると思います。
その点、Onlabはアクセスできるリソースや機会が多様で素晴らしかったです。様々なメンターに日々生じる悩みをウィークリーでぶつけて、コミットメントして、発表して、またフィードバックをもらう。そういう集中プログラムの存在を体験したことで、良い経営のリズムを作れたと感じています。参加を迷われている方がいれば、門を叩いてみるといいのではないでしょうか。
― ありがとうございます。WTTはOnlab24期の最優秀賞ということで、期待の星です。引き続き、応援しています。西木戸さん、今回はありがとうございました。
ありがとうございました。
(執筆:pilot boat 納富 隼平 撮影:taisho 編集:Onlab事務局)
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