2021年07月01日
Onlab ESG Meetupとは、持続可能なスタートアップエコシステム構築を目指し、あらゆる分野の社会課題に取り組むスタートアップ、投資家、大企業、支援者などのステークホルダーをゲストに迎え、サステナビリティな取り組みについて考えるMeetupです。
2021年6月22日に開催された第2回では、環境・社会・ガバナンスの3つの観点を含めた投資活動であるESG投資の中のインパクト投資について、北欧や米国などの最先端の事例を学びながらその課題について深堀りしていきます。ゲストには北欧スタートアップ・成長企業の一歩先行く市場参入をサポートしているNordic Innovation House Tokyoのコミュニティ・ディレクターのニコラス氏と、JBIC IG Partnersとバルト地域最大のPE/VCファームであるBaltCapが共同設立したベンチャーキャピタルNordic Ninja VCの宗原氏をお迎えし、日本・北欧のエコシステムの現状や今後の可能性についてお話を伺いました。
< プロフィール >
Nordic Ninja VC マネージングパートナー 宗原 智策
慶應義塾大学卒業。国際協力銀行(JBIC)にて、M&A投資の方針・戦略立案や欧州のクリーンテクノロジーや蓄電システム向け投融資を行う。また、メキシコに3年赴任し、EV事業や再エネファンドの設立にも従事。その後JBICと経営共創基盤(IGPI)のJVであるJBIC IG Partnersの立ち上げに参画し、ロシア・欧州向けのベンチャー投資をリード。2019年にNordicNinja VCの設立と共に拠点をフィンランドに移し、北欧・バルト地域でのベンチャー投資を行う。フォーカス領域はCleantech、AI/Autonomous、Blockchainなどで、投資先の社外取締役として日本市場への参画含めたビジネスディベロップメントも支援。
Nordic Innovation House Tokyo コミュニティ・ディレクター ニコラス・カルヴォネン
日本のIoTベンチャー起業、東京でのテック系イベントの企画・運営を経て、現職。アアルト大学大学院(フィンランド)で、国際デザインビジネスマネジメントとCEMS Master’s in International Managementのダブルディグリー取得(在学中に慶應義塾大学院および一橋大学に交換留学生として来日)。北欧のスタートアップエコシステム事情に精通しており、日本と北欧のイノベーションエコシステムの橋渡し役として活躍中。
株式会社デジタルガレージ執行役員(SDGs担当) デビー・アルトモンテ
SDGsを担当する執行役員として、デジタルガレージの持続可能性と開発目標の前進を促進する、革新的、グローバル、包括的そして公平なポリシーの実施を支援。日本の東京で育ち、伊藤穰一氏やデジタルガレージ創立初期メンバーたちと共にインターナショナルスクールを卒業。ミネソタ大学で国際関係学を専攻し、東アジア研究を副専攻。米国ニューヨークで電通NY支社のプロジェクトマネージャーを数年担当した後、伊藤穰一氏に誘われ米国を拠点とする様々なテクノロジー企業のローカリゼーションを支援。その後、米国を拠点とするイニシアチブのNY支店マネージャーとなった。
株式会社デジタルガレージ オープンネットワークラボ推進部長 松田 信之
東京大学院在学中に学習塾向けコミュニケーションプラットフォームを提供するベンチャーを共同設立。2008年4月より株式会社三菱総合研究所において、民間企業の新規事業戦略・新商品/サービス開発に係るコンサルティングを経験。近年ではスタートアップと大企業、自治体などを巻き込んだオープンイノベーション支援にも携わる。
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モデレーターを務めるのは、デジタルガレージ オープンネットワークラボ推進部長の松田です。今回は、北欧・バルト地域でのベンチャー投資を行う「NordicNinja VC」と北欧スタートアップ/成長企業の、日本進出を支援する「ノルディックイノベーションハウス東京」の2社に、お話を伺いました。デジタルガレージSDGs担当役員のデビー氏はビデオコメントで参加し、米国におけるサスティナビリティ活動やESG投資の潮流についてお話いただきました。
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松田(Onlab):
本日のゲストは、Nordic Innovation House Tokyoという北欧を拠点に活動するスタートアップコミュニケーションプラットフォーム東京のコミュニティ・ディレクター、ニコラス・カルヴォネンさんです。
ニコラス(NIH):
私たちNordic Innovation Houseは、ノルウェーのオスロに本部を置き、北欧5ヶ国政府の連携組織北欧閣僚理事会(Nordic Council of Ministers)に属した組織です。「北欧のベストを世界へ」というミッションを掲げて、北欧で起業やイノベーション、競争力を推進するNordic Innovationからサポートを受けながら活動しています。2011年に前身となる組織がシリコンバレーで立ち上がり、現在は東京やニューヨーク、香港、シンガポールにも拠点があります。
現在、日本で活躍している北欧のスタートアップは30〜40社。その中には音楽配信のSpotifyやフードデリバリーのWolt、ゲーム開発に欠かせないプラットフォームのUnityなど、日本の皆さんもよくご存じの企業もあります。すでに日本市場で活躍するスタートアップが増える一方、北欧には社会課題やニーズに特化した技術を持つスタートアップもまだ数多く存在しています。私たちはそんな彼らの日本進出をサポートしています。
2021年現在、私たちがフォーカスしている分野はデジタルヘルス、クリーンテック、デジタルトランスフォーメーションの3つ。北欧5ヶ国でも労働人口の減少や気候変動、デジタルトランスフォメーションなど、日本と同様の課題を抱えています。日本と北欧のステークホルダーが連携していくことで、これらの課題を解決したり新しい価値を生み出したりできるように取り組んでいます。
松田(Onlab):
ニコラスさんはフィンランドのご出身で現在は東京にいらっしゃいます。反対に、現在はフィンランドにいらっしゃる宗原さんは、Nordic Ninja VCという北欧スタートアップを投資対象にしたベンチャーキャピタルを運営していらっしゃいます。
宗原(NNVC):
現在、Nordic Ninja VCの創業メンバーでマネージングパートナーを担当しています。私は大学卒業後、国際協力銀行でM&Aの投資や再生可能なエネルギーも含めたクリーンテック向けの投融資を10年間行っていました。5年前にグローバルに活躍できる投資ファームを作るために国際協力銀行と経営共創基盤のジョイントベンチャー「JBIC IG Partners」を立ち上げて、ロシアやヨーロッパのベンチャー投資のリードをしていました。3年前に北欧5ヶ国とバルト地域3ヶ国のスタートアップに投資してグローバル展開を実現させるためにベンチャーキャピタルNordic Ninja VCを立ち上げました。
現在、私は北欧やバルト地域向けに10数件のベンチャー投資をしています。実はNordic Ninja VCとJBIC IG Partnersは、このバルト地域で最大のベンチャーキャピタルなんです。日本ではホンダ、オムロン、パナソニック、国際協力銀行の4社様よりご出資いただきました。
北欧とバルト地域は8ヶ国を合わせても人口が3000数百万人で、日本の首都圏と同じ規模です。自国のマーケットに閉じたビジネスではグローバルに成長できないので、常に世界の市場を見て活動していなければならないんです。北欧地域はマーケットが小さいものの、デジタルテクノロジーやデジタルイノベーションが強い。一方、日本はマーケットがまだ大きいものの、サイバー空間よりもリアル空間といったマニファクチャーを含めたハードウェアが強い。つまり、双方で提供し合えるものが合致しているのでWin-Winの関係が築けるだろうと考えています。
松田(Onlab):
現在はどんな企業へ投資していらっしゃいますか?
宗原(NNVC):
フィンランドのMaaSGlobalやLogmoreなど計14社へ投資をしています。Logmoreは状態監視会社で、QRコードを使って医薬品やワクチンを輸送したり、安全性や有効性を確保するために保管状態を管理したりすることができます。例えば、ファイザー製の新型コロナワクチンも超低温で保管されないと接種効果が失われてしまう。そこで、スマートフォンからQRコードを使って操作するだけで、温度や湿度、傾き、衝撃度合いなどのデータが全てクラウドへアップデートされるんです。
もう一つ、スウェーデンで電動キックスクーターを提供するVoi社があります。ヨーロッパでは新型コロナウイルスが発生して以来、人々の新たな交通手段としてこの電動キックスクーターが普及しています。アメリカでは人々が公共交通機関の代わりに自家用車の使用へ回帰した一方、ヨーロッパでは電動キックスクーターのために自転車専用道路を整備して、ヨーロッパの全都市でVoiの電動キックスクーターが使われるようになりました。私たちはこのような企業へ投資して、日本の市場に展開したり日本の企業とお繋ぎしたりすることをミッションとしてファンド活動をしています。
松田(Onlab):
ここで一旦、米国におけるサスティナビリティ活動やESG投資の潮流についてデジタルガレージのデビーさんからのレポート動画をご覧ください。
デビー(DG NewYork):
デジタルガレージSDGs担当のデビー・アルトモンテと申します。デジタルガレージのサンフランシスコオフィスに勤務しており、現在の仕事はSDGs(持続可能な開発目標)の導入とその目標達成、およびESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みを支援することです。今日は皆さんと直接お会いすることができず残念ですが、サステナビリティとインパクト投資についての現在の米国の全体像についてお話しする形で、このOnlab ESG Meetupに参加する機会を頂いたことに感謝します。
早速ですが近年の米国は、2021年にバイデン政権が発足した際、2021年4月22〜23日にリーダーズサミットを開催し、世界の温室効果ガス排出量の削減を目指して各国をまとめ、2030年までに「経済全体」で温室効果ガスの純排出量を50〜52%削減するという米国の公約を発表しました。
また、アメリカ再強化計画である最新の「American Jobs Plan」を発表し、雇用創出、インフラ再構築、公共投資、クリーンエネルギーへの移行などが計画の中核とされています。米国財務長官のジャネット・イエレンは、ネット・ゼロ・エミッションへの移行を促進するために公共投資を行うことを表明し、経済全体で変化を起こそうとする現政権の意図を明確に示しました。
今から10年以上前JPモルガンとロックフェラー財団は、「インパクト投資は、2020年までに4,000億ドルから1兆ドルに達する」とGIIN(Global Impact Investing Network)と共同で報告し楽観的で野心的な見方をされていました。しかし、最新レポートによると、インパクト投資市場は、2020年には運用資産がおよそ7,150億ドルに達し、国際金融公社(IFC)ではさらに高い2兆1,000億ドルと見積もられています。
「The Stanford Social Innovation Review」記事によると、2019年8月、米国経営者団体のビジネス・ラウンドテーブルが、企業の目的を株主への回答以上のものと再定義し、従業員、顧客、コミュニティを含む「すべてのステークホルダーへの基本的なコミットメント」を含むことを発表し、当時は様々な評価を受けて話題になりました。
その後、2020年には、世界的なパンデミック、山火事、組織的な人種差別の見直し、そしてそれに伴う経済危機が起こりました。これらの出来事は、より多くの企業に、企業目的の新たな定義を受け入れさせ、事業目標とともに社会的および環境的な目的を推進する投資戦略、すなわち企業のインパクト投資の後押しをしました。
ここ米国ではパタゴニアが、2013年に新機軸で最初のインパクト投資家の1社である、パタゴニアのベンチャーキャピタルファンド、 Tin Shed Ventures を設立。“再生可能エネルギーのインフラ構築、再生可能な有機農業の実践、水の保全、廃棄物の再利用、持続可能な素材の作成 ”に焦点を当てたスタートアップ投資を行っています。
さきほど述べた、インパクト投資市場総額推定7,150億ドルのうち、イノベーションを目指す企業のインパクト投資家は、現在72億ドル以上の資金を運用しています。2020年だけでも、Amazon、Microsoft、Salesforce、TELUS、Citi、Unileverがそれぞれ1億ドルを超えるベンチャーコミットメントを発表。
企業のインパクト投資戦略の70%は自社の資産やファンドを活用し、13%は研究開発などの戦略的パートナーシップを活用。15%は財団などのフィランソロピー組織を活用しています。
また、インパクト投資の焦点も様々で、55%が環境の持続可能性をターゲット領域として考えており、次いで社会正義(35%)、労働力開発・教育(23%)、健康(10%)となっています。2020年に開始されたインパクト投資戦略のうち、46%が具体的なダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンを目標としています。
松田(Onlab):
サステナビリティやESGインパクト投資では地域ごとに特徴があると思います。北欧ではどのような目標を掲げていますか?
ニコラス(NIH):
北欧5ヶ国のインパクトスタートアップが持つミッションステートメントは「2030年までに世界で最も持続可能かつ統合された地域になる」というもの。北欧では、SDGsに注力するインパクトスタートアップが3年間で3倍に増えて、年間資本投資数も10年間で25倍になりました。また、持続可能な発展や国際競争力、QOLなどの国別ランキングではいずれも北欧5ヶ国が上位なんです。理由はまず、企業の長期的成長や競争優位性にはSDGsが欠かせないと国や政府が認識しているから。次に、国境を超えて大企業がESGスタートアップと連携してサポートする流れが生まれているからです。
また、ESGには環境(Environment)だけでなく社会(Social)やガバナンス(Governance)も含まれていますが、北欧ではもともとジェンダーや労働などの課題へ取り組んできた歴史が長い。昔からスタートアップエコシステムが形成されてきたので、SDGsへの意識が企業、個人ともに高くESG投資の浸透も早いですね。
松田(Onlab):
印象的なのは、VC活動においてインパクト投資が占める割合は北欧が34%。他のヨーロッパ諸国と比べても突出しています。特にシード、アーリーですよね。公的資金がインキュベーションを支えているという構造になっていると思います。
日本でよく言われるESG投資の課題では、企業のESGに関する情報開示が不十分である点や、ESG投資の評価方法が確立されていない点、また、社会的インパクトと金銭的リターンの関係のように、インパクト投資の投資先が儲かるという確信が持てない点が挙げられます。そもそもインパクト投資やテックの専門知識は切っても切り離せないんですが、専門的知識がある人が投資に関われていないといった体制の課題もあると思います。
今後のESGインパクト投資で必要なものを語る上で、4つの観点があります。国、大企業、投資家、そしてスタートアップ。それぞれのプレイヤーが役割を果たしながら社会課題を解決していく。それぞれの切り口が違うので、まず、国単位のマクロの話から進めると、北欧各国政府が掲げる「2030年までに世界で最も持続可能かつ統合された地域になる」を見るかぎり、北欧がESG分野でイニシアチブを取って世界をリードしていくんだろうと考えています。
一方、米国でもバイデン政権がパリ協定を復活させたので、当然ながら世界を牽引していかなければならない。ともすればコンフリクトや利害関係が発生する中で各地域がリードを取っていくと見ていますが、北欧からご覧になって、国家間のイニシアチブやESGのリーダーシップはどのように映っていますか?
ニコラス(NIH):
カーボンユーティリティーについては多くの国が言及していますよね。私たちがご支援いただいているNordic Innovationでは、北欧5ヶ国の政府のバジェットから支援を頂いております。そしてバイオイノベーション、電気自動車までさまざまなプログラムを作成しています。
宗原(NNVC):
北欧政府には世界を良くしなければいけない、次世代に良い地域を残さなければいけないという使命が原点にあると思います。ダークサイドとして見た場合、これは必ず新しいオポチュニティを生むんですよね。グリーンハウスガスは京都議定書が締結された時から言われていますが、アメリカと北欧はどちらが世界をリードするのかを巡って争ってきました。北欧にアジェンダセッティングやルールメイキングができるチャンスがあるのは事実です。北欧は小国の集まりですが、グローバルなアジェンダに対してリードすればするほどマーケットが広がっていきます。世界的にも、このトレンドに対して北欧がフロントランナーとして活躍することが、環境政策だけでなく経済循環にも重要だと思います。
松田(Onlab):
北欧の動きを見ていると、インパクト投資をベースにした新たな価値観を作っていくケースが多いと思います。一方で気になるのが、これらを代表する存在がいないこと。ドイツやイギリスといった旧来的なヨーロッパ諸国を見ると、GDPR(General Data Protection Regulation。個人データ保護やその取り扱いについて詳細に定められたEU域内の各国に適用される法令)や自動車のCO2排出規制など、規制の観点が強くなっているし、ブレグジットのような仲間割れが起きて足並みが揃っていない。北欧からご覧になって、このようなヨーロッパの動きをどうお考えですか?
ニコラス(NIH):
ヨーロッパでは、特にイギリスでインパクト投資が進んでいると思います。イノベーティブなスタートアップに資金供給するための組織「欧州イノベーション会議(EIC)」が2021年から発足して、北欧の企業の多くが支援を受けています。また北欧では、EU加盟国か否かを考えるんですよね。ヨーロッパ全体としての動きは重要ですが、EUが誕生する前から、北欧では長い歴史の中でお互いの連携や関係が築かれているので。
松田(Onlab):
それを踏まえると、北欧とヨーロッパを分けて考えない方が良いんですね。アーリーステージで資金調達をする時、例えばノルウェーではスタートアップの半数が公的資金を受け取っているというデータがありますが、シード、アーリーへの公的資金の手厚さにはどのような背景がありますか?
ニコラス(NIH):
行政と民間が協力して公共サービスを効率的に運営するパブリックプライベートパートナーシップ(Public Private Partnership、PPP)として、ヨーロッパには北欧最大級の起業家・投資家マッチングイベント「スラッシュ」があります。このスラッシュにもフィンランドの外務省と連携しながら運営していくグローバルインパクトアクセラレータというプログラムがあるんです。私たちもちょうど資金をいただいているところですが、フィンランドでも、政府が携わるビジネス振興機構の支援を受けたい場合、ビジネスモデルにSDGsが含まれていることは欠かせない条件ですね。
松田(Onlab):
日本では補助金といったお金を借りやすくする支援が多いんですが、北欧ではエクイティの出資、あるいは補助金なのでしょうか。
宗原(NNVC):
複数あります。日本では、持続可能な社会の実現に必要な技術開発の推進を通じてイノベーションを創出する国立研究開発法人「NEDO」のように実証に対する補助金がありますし、ベンチャーレッドという融資もあります。最初はエクイティではなく転換権付き融資、いわゆるコンバーティブルノートやコンバーティブルローンのように投資するケースが多いですね。
ここはなかなか悩ましいんですが、公的機関は常に民間資金導引を考えています。例えば、R&D費用を100%公的資金でカバーしたくない。一方、インパクト投資やインパクトスタートアップでもキャペックスインテンシブなR&Dやヘビーなスタートアップには、VCマネーやエンジェル投資家のマネーが集まってこないんです。そういう意味で、民間投資とのマッチアップに苦労しているケースはよく見られます。
松田(Onlab):
日本ではNEDOが緊急開発スタートアップへ補助金を出す位置づけに近いんでしょうね。VCからご覧になって、これだけの規模の公的資金が流れていると投資の阻害にもなりうるという見方もあると思いますけど、いかがでしょうか。
宗原(NNVC):
私はプラスだと思います。公的機関が一気に投資してハンズオンをして、政府系機関や公的機関がスタートアップをコントロールすると大きな問題になりますが、そのようなケースはあまり見られません。北欧では公的機関が投融資をした後、しっかりモニタリングしています。例えば、創業者が何か意思決定してアクションする際、デイリーにコミュニケーションしたりオペレーションに介入したりすることはなく、サイレントインベスターとして自分たちの役割を考えつつ、他に徹するというパターンが徹底しているので大きな問題にはなりません。VCになると、プロダクトが完成してからVCの人たちが沢山お金を入れたがるので、製品が完成するまで、または売り上げが出てくるまでは公的機関の補助をしないと成り立たないんです。
松田(Onlab):
続きまして、大企業目線でお話を伺います。昨今、日本でもSDGsが盛り上がってきていて、さまざまな企業がペットボトルのラベルを廃止するなどの取り組みが始まっています。また、日本の企業が巨額のお金を入れ始めていることで数百億円規模のESG関連のファンドも立ち上がっています。こうした流れと比較して、北欧の大企業はどのように動いていますか?
ニコラス(NIH):
北欧でもいかにスタートアップと大企業が上手く連携しながら活動していくかは重要ですね。ESGやサステナビリティについてノルウェーの大手銀行が「なぜあなたの企業はサステナビリティにフォーカスしているか?」というアンケートを取ったところ、1位の理由が「消費者需要に対応できるから」だったんです。コンシューマームーブメントは徐々に活発になってきていると思います。2位以降はブランディング、法律的な背景、自社のミッション、と続いていました。
松田(Onlab):
コンシューマームーブメントが大企業の動きに影響しているんですね。日本ではどうしても環境やエネルギーばかりが注目されますが、北欧ではジェンダーや労働といった社会の平等性が進んでいるイメージがあります。北欧からご覧になって、日本のESGに対する取り組みをどのようにお考えですか?
宗原(NNVC):
確かに、北欧では女性の活躍や男女平等についての課題意識や取り組みは盛んです。北欧ではどの企業でも女性のエグゼクティブが多いし、フィンランドでは首相や連立政権5党の党首も女性ですし、取り組みのクオリティも高く保たれています。ESGのために実施しているというより、長い歴史の中で労働制を社会とした前提で動いてきたので、当たり前のこととして実現しているんだと思います。
また、日本の企業から見るとESG対応がコストになりやすいんですが、北欧の企業では、H&MやIKEA、LEGOを筆頭にさまざまな取り組みをしています。全ての製造過程を再生エネルギーにしたり、製造部品の調達も再生可能な素材に変えたりしていて、リサイクルを超えてサーキュレーションエコノミーとして行っています。彼らには「どうせ将来にESGがコストになるのであれば、今のうちに投資しよう」というマインドセットがありますね。H&Mも以前、一部の衣料品の材料が環境に悪いという批判を受けて不買運動に発展しました。すると、投資家や金融機関からESGに対する説明を求められる。そのような対応コストが高いのであれば、最初から投資して透明性の高いESG戦略を世に出してステークホルダーにも納得してもらう。つまりどこでコストがかかるか、どこで対応するかを先回りして考えるんです。
松田(Onlab):
市場や社会からESGに関する企業の取り組みがどのように評価されるのかという視点は重要ですが、日本ではまだ根付いていません。投資や評価に関する北欧の判断基準や指標を教えていただけますか?
宗原(NNVC):
投資家目線としては、北欧のVCや投資家はESG投資とインパクト投資を分けて考える傾向も出てきていますが、まだフワッとした定義が広がっているのも事実。ESG投資は、投資の目線がリターンとリスクで変わらなくて、それを最適化するためにESGをリスク指標として見ていきましょう、と。北欧のVCやインパクト投資家がやっているインパクト投資では、従来のリスクとリターンにインパクトを加えた3軸を作っているイメージです。なので、北欧のインパクト投資家はファイナンシャルリターンとインパクトリターンで、リスク指標ではなくリターン指標であると言っています。
このインパクトリターンをいかに可視化するかは今後の課題です。松田さんがおっしゃるように、フィンランドのThe Uplight projectでは、グリーンハウスガスの他にもさまざまなインパクト指標を集めて正と負の値を付けて、最終的にインパクトインデックスのようなものを作るようになってきています。
最近、私たちが注目しているのは、スウェーデンのClimateViewという会社です。この会社では都市の気候変動計画のトランジションをスコア化、モデル化しようと考えています。さまざま都市が気候変動計画を作ってグリーンボンドを発行する時、トランジションスコアがどれくらいかという視点はマーケットで重要になってくる。皆が持っているデータからいかに価値を出してデファクトスタンダードにしていくか。将来的には、アメリカが持っていた財務指標のムービーでスタンダードプランに対抗するような社会的指標を北欧から出していくことが感じられます。
松田(Onlab):
スタートアップ支援をしている立場としては、大企業がスタートアップと組むことによって指標や評価が高まったり、活動自体がより深まったりするシナリオは嬉しいですね。ニコラスさんにも伺います。北欧でのスタートアップと大企業の公共促進や取り組みの事例はありますか?
ニコラス(NIH):
一つ挙げるとすると、フィンランドのアパレル企業Marimekkoです。特殊な木材を使って新しい繊維を作る企業と連携しながら、Marimekkoはサステナブルかつリサイクルの可能なファッションを作ろうとしていますね。
松田(Onlab):
なるほど。ニコラスさん、宗原さん、本日はありがとうございました。
ニコラス(NIH)・宗原(NNVC):
ありがとうございました。
・ ・ ・
以上で、第2回Onlab ESG Meetupは終了です。今回も100名以上の方にご参加いただき、北欧のESGやインパクト投資へ理解と、スタートアップへの期待が伺えました。OnlabではESG活動や社会課題に取り組むスタートアップを引き続き紹介していきます。
(執筆:佐野 桃木 編集:Onlab事務局)
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