2021年06月11日
Onlab ESG Meetupとは、持続可能なスタートアップエコシステム構築を目指し、あらゆる分野の社会課題に取り組むスタートアップ、投資家、大企業、支援者などのステークホルダーをゲストに迎え、サステナビリティな取り組みについて考えるMeetupです。今回は2021年4月28日に開催された、社会課題に挑むOnlab卒業生の2社をお招きし、社会課題に挑むスタートアップの戦い方についてお話を伺いました。ステークホルダーをどう巻き込み、どう事業アクションに繋げているのか、また持久戦を要するビジネスにおいて、いかに収益化しグローバル展開を進めていくのか、「環境 × スタートアップ」として戦う2社に、経営のリアルを伺ったディスカッションの様子をお届けします。
< プロフィール >
株式会社/一般社団法人ピリカ 代表 小嶌 不二夫
大阪府立大学卒、京都大学大学院中退。在学中に世界を放浪、道中に訪れた全ての地域で大きな問題となっていたポイ捨てごみの解決を目指し、2011年に株式会社ピリカを創業。ごみ拾いSNS『ピリカ』の開発やポイ捨て調査サービス『タカノメ』の提供など、テクノロジーを使ってごみ問題の解決に取り組む。「Eco summit 2013 in Berlin」金賞、「第1回環境スタートアップ大賞」環境大臣賞など国内外で受賞歴多数。
株式会社GOYOH 代表取締役 伊藤 幸彦
バックパッカーとして世界70か国以上を長期旅行し、2006年(23歳時)ニューヨークにてホスピタリティ投資会社を起業、マンハッタンでのサービスアパートメント(民泊)への投資・運用・運営業務を行う。2008年(株)アスタリスクを日本に設立し、国内・海外の機関投資家や超富裕層のクロスボーダーなホテルや不動産、ファンドへの投資アドバイザリー業務を行なう。欧州と米国それぞれの地域で最大級の不動産運用会社(総運用資産9兆円を超える)などの海外投資ファンドのコンサルタントや日本での資金調達、グローバルなホスピタリティ投資JVの事業パートナーを務めるなど、国内・海外の不動産開発者や投資ファンドへのコンサルタントを務める。2018年8月(株)GOYOHをアスタリスクのスピンオフ・ベンチャーとして創業。
モデレーターを務めるのは、Open Network Labにスタート時より参画し、現在はエバンジェリストとしても活動しているデジタルガレージの佐々木です。今回は2011年Onlab3期ごみの流出問題を解決する「ピリカ」と2021年Onlab22期の企業のESG施策をみえる化する「EaSyGo」(株式会社GOYOH)の2社に、彼らのビジネスの原点や課題解決で社会にどう変えるかを探ります。
佐々木(Onlab):
最初のテーマは「ビジネスの原点と解決する課題」としました。2人はどうして今のビジネスに行き着いたのですか?
伊藤(EaSyGo):
EaSyGoを着想したきっかけは、15年以上前になります。当時新しくビジネスになりそうな領域を探していたら「CO2の排出権がビジネスになる」という記事を見つけたんです。そのときは何かするわけではなかったのですが、頭の片隅にCO2のことがずっと残っていました。時を経て今から5年ほど前の2016年。当時私は不動産の専門家として事業を営んでいて、機関投資家や海外の大企業とのやりとり多かったのですが、世界的な投資家との議題の中で「ESG」が投資判断のメインテーマの一つに浮上してきたのです。ESG活動の「環境負荷を定量化して会社の価値にできる点」に興味を持ちました。次第に国内の投資家の間でもESGが話題に上ることが増え、CO2排出権も含めて、「今のトレンドや求められている要素」がわかり、事業化して今に至ります。
小嶌(ピリカ):
私は子供のときに読んだ本の影響で、ずっと環境問題に興味があったんです。大人になっていよいよ事業をしようと考えたとき、環境問題だと広すぎるのでゴミ問題に集中することにしました。世界を旅する中で、ゴミはどこの国にもジャングルの奥地にだってあるので、どれだけ掘り下げても課題はなくならない、つまり市場が大きいと思ったのが理由です。
佐々木(Onlab):
ピリカはもう10年選手で、やっと世界の方が追いついてきたというイメージをもっています。スタートアップが環境分野で戦うことにはどんな特徴がありますか?
小嶌(ピリカ):
一般的にスタートアップは規模も小さければ歴史も短いので、しがらみの少ないケースが多い。大企業はもともとある大きなビジネスがあって、環境の観点からすると、それがマイナスの影響をもつことも珍しくありません。そこで環境への影響をプラスにしようとする新規事業をやろうとすれば、既存事業とのコンフリクトが起こってしまいます。しかしスタートアップならそういった心配はないのが特徴ですね。
佐々木(Onlab):
続いてのテーマは「人を動かす、ビジネスを動かす」。2社に共通するのは情報の定量化です。そもそも、情報を定量化したからといって、企業の行動は変わるのでしょうか。
小嶌(ピリカ):
変わってきていますね。企業にとっては現状維持が一番楽じゃないですか。今のビジネスをそのまま続けたい。そこから変化を起こすためには、危機感を認識する必要がある。そのために数字はわかりやすい指標になります。
伊藤(EaSyGo):
EaSyGoとしても同じ意見です。見える化しないと目標設定できないので、行動に移しにくいんですよね。また我々の直接のお客さんであるビルオーナーだけではなく、ビルオーナーは他のステークホルダー、例えばビルのテナントだったり銀行ともコミュニケーションをとらないといけません。そこではステークホルダーの目線はバラバラなので、定量的に表して話をするのが合意も得やすい。なので情報の見える化は非常に重要です。
佐々木(Onlab):
情報の見える化ができた後は、会社や人をどう動機づけるかだと思いますが、両社はどういうアプローチをとっていますか?
小嶌(ピリカ):
まず見える化して、業界に問題があるということを知っていただきます。「このままではまずい」という認識をしてもらった後に「御社だけでも先に新規事業を作って抜け出しませんか」と提案する、というイメージですね。
佐々木(Onlab):
それこそスタートアップの戦い方ですね。
小嶌(ピリカ):
10社中9社がダメでも、1社が「イエス」と言ってくれれば僕らにとっては勝ちですからね。売上もできるし、PR効果もありますし。
伊藤(EaSyGo):
確かに事例をどんどん積み上げていくのが大事ですよね。
佐々木(Onlab):
企業の賛同が得られたら、次はコンシューマーに広げていかないとならない、最近では環境問題やESGやSDGsがメディアで取り上げられる機会が増えていることもあって、人々の認識も変わってきているのでしょうか。
小嶌(ピリカ):
人々の認識も変わってきています。僕らの観測範囲だと、若い世代と、意外かもしれませんが40代前後の世代の意識が変化しているように感じます。子育てが落ち着いてきた世代の方が、ゴミを熱心に拾ってくださるケースが多いです。
伊藤(EaSyGo):
あるデータによると、高級リゾートホテルが「こういった環境対策をしています」と表明した場合、宿泊料金が10%程度高くなるそうで、ビルでも家賃が5%上がるといった例が増えています。
佐々木(Onlab):
「環境にいいなら多少高くてもいい」という価値観があるということですね。
伊藤(EaSyGo):
そのとおりです。ただやはりここでも見える化が大事だと感じています。「多少高くてもいい」とは思っているものの、「それで何が変わったのか」という点は知りたいじゃないですか。その解を提示できれば個人も選択肢が広がると思います。
佐々木(Onlab):
「人を動かす、ビジネスを動かす」ができたら、やはり収益化が気になります。ESGに取り組むといえど、自分たちの事業がサステナブルじゃないと、活動が続かないですからね。
小嶌(ピリカ):
結局多くの企業にピリカの取り組みへ参加してもらうことに尽きますね。実際、10年間やってきた信用が積み上がってきたのか、事例が増えてきて色々な企業がピリカの活動に参加してくれるようになってきました。時代的な追い風もあって、「国がやっているから」という「環境保護に取り組む理由」もできて、さらに参加してくれる企業も増える、というサイクルができています。
ピリカが10年間の活動の中で3つの事業を生み出しているように、環境分野は課題が多い領域で、研究開発への投資が必要なんです。そのため利益を生み出して投資をしていかないといけないという点には気を使っています。
佐々木(Onlab):
EaSyGoの収益化にはどんな課題がありますか?
伊藤(EaSyGo):
企業はEaSyGoにお金を払いサービスを利用するわけですが、当然そこから収益に繋げないといけません。つまり「EaSyGoを使うことでどう収益に繋がるのか」という説明をする必要があります。その方法の一つが、先ほどのデータの見える化。ユーザーのインサイトを捉えた手段を提供する必要があると実感しているところです。
佐々木(Onlab):
ピリカが取り組む問題は世界的にも大きな課題ですが、この領域においての最近の潮流を教えてください。
小嶌(ピリカ):
海洋プラスチック問題は日本でも話題になっていますが、東南アジアやアフリカ等、回収インフラが整っていない新興国ではより大きな問題になっています。そこに国連や世界銀行、アジア開発銀行等が5年で総額1兆円の投資を計画していて、解決に動きだしました。その投資が政府や地元のNPOに流れるわけですが、資金に対して圧倒的にプレイヤーが少ないんです。
受け皿の大半がNPO・NGOで「地道に清掃・ボランティア活動をしています」という団体が多く、抜本的な解決策がないんです。そう考えると、まさに起業家が頑張るべき状況なのかなとは思っています。
佐々木(Onlab):
チャンスではあるので、スケールできるモデルができるといいですよね。オランダに寄付で運営されている組織があると聞いたことがあるのですが……。
小嶌(ピリカ):
The Ocean CleanupというNGOですね。年間寄付収益が40億円ぐらいの超巨大スタートアップです。太陽光などのクリーンなエネルギーを使って、⼤量のゴミを回収・リサイクルしています。
佐々木(Onlab):
ピリカも寄付を募るという考えはあるのですか?
小嶌(ピリカ):
寄付を募るかどうかはさておき、ピリカはビジネスにこだわりすぎてしまったなと反省しているんです。というのも、The Ocean CleanupはTEDに出たりしてパブリシティを集め、著名人やセレブにもアプローチをしていました。「僕らとは違うアプローチだな」と見ていたのですが、これは寄付市場のポテンシャルを過小評価していたとも言えます。彼らのやり方も当然間違っているわけではないし、今では、これはこれでいいやり方だなと思っています。
佐々木(Onlab):
伊藤さんはどうですか?
伊藤(EaSyGo):
まず前提として、ESGやSDGsの基準はほとんどヨーロッパで作られたものです。そのため日本企業がこの領域に取り組もうとすると、どうしてもヨーロッパの基準に合わせて行動しなくてはいけない。ただそれだと日本が評価されにくい側面もあるわけです。例えばテクノロジーに関与する尺度ですと、日本はヨーロッパよりもいいスコアが出ることもあります。ただ満点以上がないので、どんなに突き抜けていても評価されにくいんです。
したがってスタートアップとしては、まだルールができていない領域で日本発として世界に出ていくと、ルールメイキングもできて面白いのかなと思います。
佐々木(Onlab):
実際にEaSyGoは海外から引き合いがきているんですよね。
伊藤(EaSyGo):
昨日、ドイツの生命保険の大企業にサービス紹介したのですが「君たちすごいな。よくこんなの思いついたな」とおっしゃって頂きました。海外からもそう言われるのは嬉しいですね。
佐々木(Onlab):
スタートアップからみて、投資家やステークホルダー、またはレギュレーションをもっとこうしてくれたらいいのに、という点を教えて下さい。
小嶌(ピリカ):
2つあって、1つはもっと環境分野への可能性を感じてほしいです。人間は今すぐ問題を解決できるほど賢くはないですが、かといって今後100年問題を無視し続けて滅びてしまうほど愚かでもないと僕は思っています。とすれば、何かの問題が大きくなってくれば、人類は必ず解決策を見つけ出し、関連する産業やビジネスは必ず発展します。環境分野は長く続ければ必ず大きく成長する分野だと思うので、その可能性を信じてもらいたいです。
2つ目はもっと現実的な観点で、長い時間をかけて投資する仕組みがあるといいかなと思います。ピリカは事業を開始してからたまたま8年目くらいでゴミの問題が大きくなってきましたが、場合によっては20年30年かかってもおかしくなかったと思うんです。そう思うと、例えばファンドの償還期間を通常より長くする、といったことがあってもいいのかなと思います(編注:一般にスタートアップに投資するVCファンドの償還期間は8~10年程度)。
伊藤(EaSyGo):
スタートアップと言えど、行政やステークホルダーにどれだけ支援していただけるかは非常に重要です。経済面もですし、規制面もです。
ジャストアイデアですけれども、先ほど「ESGの取り組みだったらリターンを少し犠牲にできるか」といった話がありました。例えばスタートアップが研究開発に回した金額分を助成や税制優遇するという施策があれば、スタートアップとしては研究開発に投資しやすくなるかなとは思います。
佐々木(Onlab):
なるほど。大企業はこれから二酸化炭素の排出量を減らすという取り組みをしていくはずですが、例えばESGスタートアップに投資していたら、それも評価に入れられる、なんて仕組みがあってもいいですよね。
イベントでは、オーディエンスから質問を小嶌さんと伊藤さんに回答していただきました。
佐々木(Onlab):
オーディエンスから質問です。「ESG分野は日本ではまだ新しい分野かと思うのですが、事業を進めていくのに苦労したことはなんでしょうか」小嶌さんはずっと苦労していますよね(笑)。
小嶌(ピリカ):
そうですね(笑)。お客さんも僕らも、最終的にどういう形になるのかイメージできていないという点が難しいですね。なのでなかなか新しい実験をしたり、サービスの導入が難しい印象があります。もしかしたら、競合がいた方が比較できるのかもしれませんが、現時点ではそこまでプレイヤーもいないですからね。
佐々木(Onlab):
比較対象がなかったから、タカノメはDIYで初期プロダクトを作って反応を見ていましたよね。
小嶌(ピリカ):
安く作って、調査をして、ニュースにして、事例を作りました。やはりどうやって事例を作っていくかが勝負でしたね。
伊藤(EaSyGo):
ESGは新しい分野。EaSyGoが大手不動産会社と商談したときの話ですが、やはり「これは新しい分野ですね」という話になり、その後に続いたのは「だから担当者がいない」だったんです。担当者がいないと当然プロジェクトは進まないので、まずはユーザー企業の社内整備が必要な場面もありますね。とはいえスタートアップとしては、担当者がいなくても対応できるくらい扱いが簡単なプロダクトをつくらなければいけないなとは思っています。
佐々木(Onlab):
ありがとうございます。続いて、ピリカへの質問です。「40代以上の方の活動が多いとお聞きしましたが、若い世代への活動の浸透化に向けて何か新しい取り組みはされているでしょうか?」。
小嶌(ピリカ):
日本は若い人の絶対数が少ないので、相対的に少なく見えるのですけれども、割合でいうとそれなりに若い方はいらっしゃいます。彼ら向けの活動ですと、大学での講演や、色々な事業で使えるコンテンツを今作っているところです。余談になりますが、最近はユーザーとしてピリカを使ってくださる方も多いのですが、ピリカで働きたいという若い方も増えています。世代によって求めているものが違うんでしょうね。ピリカでは実際、今高校生が2人働いています。
佐々木(Onlab):
続いての質問は「ESG分野は儲けすぎると後ろめたさが出てきそうなイメージですが、その辺り、どうバランスを取りながらビジネスを拡大していくのでしょうか?」。
伊藤(EaSyGo):
面白い質問ですね。「社会や地球に還元すべき」とは言っても、還元の方法は場合によって異なってくると思います。例えばEaSyGoなら、不動産の収益を最大化しつつ、環境に最もポジティブインパクトが出るモデルです。これは費用対効果が悪いもの・良いものを定量化して進めていくという考え。一定の利益を確保しなければ事業拡大はできませんので、そこはバランスですよね。
小嶌(ピリカ):
成長期のAmazonのようなやり方がいいかと思っています。つまり利益が出ていないように見えるけど、実際はかなりの金額を研究開発に投じている、という状態です。ピリカは競合がいない分、事業によっては利益率を高くキープできるのですが、やらなければならないことも多いので、研究開発にかなりの金額を投じていて、赤字になっています。そのため投資家の方々にも「ちゃんとビジネスとして成立しますよ」と説明しなければなりません。とはいえどんどん研究開発して、より大きな問題解決をしていきたいとは考えています。
佐々木(Onlab):
その結果、成果が社会に還元できているということですね。
小嶌(ピリカ):
はい。研究開発の成果が出て売上高が大きくなってはいるものの、利益は出ていない。でも事業規模という意味で評価をしていただいているのが、今のピリカの状況です。
佐々木(Onlab):
特にサステナビリティに取り組むスタートアップとしては、ピリカのようなクリーンな経営を意識する必要がありそうですね。
それでは小嶌さん、伊藤さん、本日はありがとうございました。
小嶌(ピリカ)・伊藤(EaSyGo):
ありがとうございました。
・ ・ ・
これにて第1回Onlab ESG Meetupは終了です。初回から数十人の方に参加いただき、この分野それ自体への注目と、スタートアップへの期待が伺えました。OnlabではESG活動や社会課題に取り組スタートアップを、引き続き紹介していきます。
(執筆:pilot boat 納富 隼平 編集:pilot boat、Onlab事務局)
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