2024年05月09日
ユニコーン企業は世界で1220社。そのうち652社はアメリカ、173社は中国、71社はインド。日本のユニコーンは6社に留まっています(2023年11月時点、ソース)。とはいえ、この差は必ずしも日本のスタートアップが劣っているから生じているというわけではありません。その要因の一つは、アメリカを筆頭とした海外のスタートアップが、そのマーケットをグローバルに捉えていることにあります。一方で日本のスタートアップは、その市場を国内のみで考えているケースも多く、結果としてユニコーンの数が伸びていないのです。
そんな問題意識からデジタルガレージのOpen Network Lab(以下「Onlab」、読み「オンラボ」)は2024年3月、「Global Fundraising Masterclass / Workshop」と題し、海外の優良ベンチャーキャピタル(以下「VC」)から資金調達を実現するためのセミナーとワークショプを、デジタルガレージグループの投資支援先を対象に開催しました。講師に招いたのは、日本で初講演となるDenes Ban氏。ハーバードやケンブリッジで教鞭を執り、CNBCやCitiでもセッションを実施。1000人超の起業家の資金調達を支援し、100社超のスタートアップに投資した結果、15のユニコーン輩出に貢献した人物です。
本稿では、そんなBan氏の講演内容をダイジェストでお届けします。
< 講師プロフィール >
OurCrowd/マネージングパートナー 兼 Happiness Capital/Chief Growth Officer Denes Ban (デニス・バン)
イスラエルを中心に世界各国で投資を行うOurCrowdや香港のインパクトファンドHappiness Capitalで15社のユニコーンを含む100社以上の投資実績有り。
元シリアルアントレプレナーで、HR系のスタートアップと観光系のスタートアップ(PocketGuide)を起業し、TechCrunch Europe受賞。10年以上のスタートアップ支援・投資の経験を活かし、数多くの起業家のメンタリングを実施。
Ban氏の講演は、グローバルなベンチャーマーケット概観の観測から始まりました。近年のグローバルの資金調達環境は5年ぶりの低水準となっており、レイターステージの会社にとっては「unicorn」が「corpse(死体)」と化してしまう「unicorpse」と呼ばれる厳しい状況が続いています。アーリーステージでも今後、冬の時代を迎えるかもしれません。そのため「起業家にとって『現在の』最大のミッションクリティカルなタスクは、資金調達をすることだ」と、Ban氏は語ります。その資金調達を効果的・効率的に達成するためのセッションが、このMasterclassです。
それでは、グローバルVCから資金調達をするためには何をすればいいのでしょうか。最初のテーマは「どのように投資家と接点をつくるか」。即ち、資金調達のためのVCのリード獲得チャネルについてです。
資金調達のための典型的なリード獲得チャネルには、メール、ネットワーキングイベントへの参加、口コミ・紹介、ピッチ大会への参加、ソーシャルメディアでのコンタクトなどが挙げられます。それではこの選択肢の中で、最もコンバージョン率が高いのはどれでしょうか。「それは口コミ・紹介だ」とBan氏は断言。「VCが信頼する仲間から紹介を受けること。それこそが、最も初回ミーティングの扉を開けやすい」と続けます。ちなみにその他のチャネルは、ネットワーキングイベントへの参加、ピッチ大会への参加、メール、ソーシャルメディアでのコンタクトと続くようです。ポイントは、いかに投資家と信頼性の高い接点を作れるかと考えていいでしょう。またVCを選ぶ際には、当該VCのポートフォリオと自社の整合性も考慮する必要があります。
口コミ・紹介(あるいは他の方法で)VCとの初回ミーティングの機会を得たら、スタートアップは自社・サービス紹介のピッチをすることになります。その際にスタートアップが語らなければならないことはなんでしょうか。ポイントとなるのは、それぞれのVCに応じた「リスク」と「リワード(リターン)」を見極めること。一般的に「優良顧客がいること」や「創業者のパッション」は「リスクを下げる」ことになりますし、「TAM(獲得可能な最大の市場規模)が大きいこと」は「リワードを増やす」ことに繋がりますが、その要素やバランスは投資家によって異なります。
またVCとミーティングする際には、以下の3つに気を配らなくてはならないと、Ban氏は語ります。最も重要なのは「integrity(誠実さ)」。誠実さがなければ、他の要素がどんなに素晴らしくても意味がありません。次いで「promised land(約束の地(編注:「投資家の期待」の意味))」。金銭的リターンだけでなく、成功確率や社会的インパクトへの期待は投資家ごとに異なるので、それを見極めましょう。そして最後に「capability(遂行能力)」。投資家に、Promised Landを実現できると思ってもらわなくてはなりません。
とはいえ、「私は誠実であり、約束を叶える能力もあります」とだけ言ってもVCが投資をしてくれることはありません。そこで大事なのがピッチに際しての「ストーリーテリング」です。
VCにピッチをすると言っても、その種類は「ネットワーキングピッチ」「ピッチイベントでのピッチ」「初対面での自己紹介的なピッチ」「ミーティングでのピッチ」など多岐に渡ります。Ban氏はそれぞれのピッチで、「(使える)時間」「目的」「内容」「話していいこと」「話してはいけないこと」があると、スタートアップに注意を促します。
例えば「初対面でのピッチ」に費やしていい時間は7秒(誤記ではありません、7秒です)、目的は自己紹介からもっと詳細な説明をするためのネットワーキングピッチに移行することです。当該ピッチにおいては、投資家に「もっと教えて」と言わせるために必要なことはなんでも語るべきですし、それ以外は一切語ってはいけません。
それではVCとの初回ミーティングはどうでしょうか。使える時間は30分。目的は次のミーティングの設定で、そのために必要なことはすべて語らなくてはなりません。その時間内で投資家のpromised landが、マーケットなのかチームなのか、はたまたテクノロジーなのかを探りましょう。また近年は投資に際して「Why now?」、即ち「このサービスに投資するのはなぜ今なのか」という質問への回答が重要度を増しているとBans氏は指摘します。
こういったフレームワークを活かしながら、スタートアップは自社のストーリーをVCに伝え、納得させねばなりません。Ban氏はストーリーテリングについて、以下のように語ります。
「ストーリーテリングは人材獲得、開発、営業面でも重要であり、当然、グローバルVCへの資金調達でも必要なものです。海外に打って出るためのミッションクリティカルなタスクとして、ストーリーテリングに取り組んでください。」
Ban氏は最後に以下のように語り、Masterclassを終えました。
「資金調達はアートの一面があるので、私の言った通りにやっても上手くいかないケースもありますし、逆の方法で上手くいくこともあります。しかし資金調達はサイエンスでもあり、本日紹介したのはその一部です。上手くやれば、資金調達が成功する確率は上がるでしょう。皆さんの検討をお祈りします。」
Masterclassの後は懇親会へ。日本のスタートアップが英語でBan氏とディスカッションする光景が印象的でした。
また後日には、希望者を対象にBan氏によるワークショップを、みっちり4時間開催。スタートアップのCEOたちが、手を動かしながら、グローバルVCから資金調達をし、世界へ挑む足がかりを掴むべく奮闘しました。
こうして幕を閉じたGlobal Fundraising Masterclass / Workshop。参加したスタートアップCEOからは以下のような感想が届いています。
・すぐに使える有効なテクニックが学べた。
・ピッチを体系的に学べ、新しい視点でピッチを考えることができるようになった。
・日本市場 / 日本スタートアップが海外投資家からどのように映っているかを知ることができ視座が上がった。
・リスク / リワードをどう伝えるか等の視点や、Successful pitch deck flowを体系的に理解できた。
・グローバルでのトラクションの必要性についても再認識できた。
スタートアップ各社にとって、本イベントがグローバルで資金調達するための第一歩になれば幸いです。Onlabは、今後も継続して、スタートアップがグローバルマーケットに挑戦するための機会提供や、実践的な支援をしていきます。
(執筆:pilot boat 納富 隼平 編集:Onlab事務局)
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