2022年11月04日
< プロフィール >
株式会社デジタルガレージ オープンネットワークラボ推進部 マネージャー ESG担当 堤 世良
三井物産でアメリカや東南アジアの不動産開発、森林・植林関連事業の事業開発に従事。スペイン/IE Business Schoolでサスティナビリティやインパクト投資領域を中心に学び、2021年にデジタルガレージにて、ESG・サスティナビリティの新規事業の創出と、ESGの観点におけるスタートアップの支援・投資等を行う。
Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。これまで140社以上のスタートアップを支援・育成してきました。今回は昨今注目されているスタートアップのESG経営についてわかりやすく解説します。
そもそもESGとは、企業が持続的に事業を成長させ、企業価値を向上させる為のE(Environment / 環境)、S(Social / 社会)、G(Governance / ガバナンス・企業統治)という3つの要素のことで、気候変動や世界経済状況、労働環境や組織体制などのESG要因が、企業の持続可能性や長期的な事業経営に影響を及ぼすリスクとなり得るとして、収益を追求する企業を含めた全ての企業に対して、ESGを考慮し、事業を通じて社会課題を解決する事業経営の必要性が説かれています。
一方、SDGsとは、国連で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のことで、最近ではこのSDGsの17のゴールと169のターゲットが、企業を始めとする多くの人が取り組む活動に当てはめられています。
また、ESGが注目される少し前には、企業の多くが積極的にCSRに取り組んでいました。CSRは企業が事業活動を行う為に果たすべき社会的責任を指し、主に文化活動や環境保護活動を通じて、企業の経済活動で社会や環境に負荷を掛けている分、企業の利益を還元する考え方のことです。そのため、CSR活動は収益性を求めない活動になります。
なぜ今スタートアップがESG経営なのか、ポイントは3つあります。
1点目が非財務情報の重要性です。例えば、コロナでの従業員の働き方の見直しや、地震や台風などの自然災害下でも変わらず事業を続けていくための体制、さらにはウクライナ情勢によるサプライチェーン管理など、企業価値を業績や売上の指標だけで判断するのが難しくなってきています。そのため、いわゆる決算書に書かれた財務情報だけでなく、非財務情報の取り組みや開示が注目されてきています。
特に、スタートアップの目線で言うと、今後、事業が拡大して上場する際には、このESGのSとGと言われる従業員の働きやすさやガバナンスの体制が上場要件に含まれており、遅かれ早かれ対応していかないといけない項目であることもからも、決して大企業だけが取り組むことではなくなっています。また、これらの活動はすぐに行えるものでもなく、上場準備の段階で手を付け始めるよりも、前から少しずつ取り組んでいく必要があると言えるでしょう。
2点目が、機関投資家からの期待です。昨今、ファンドに対して出資している機関投資家が、VCやファンドに対してESGへの対応を求めており、さらにVCやファンドからスタートアップにも同様のESG対応が求められているという流れが生まれつつあります。
ここ1〜2年で言うと、デジタルガレージグループで2021年に立ち上げたファンドを含め、複数のESG重視型のファンドが立ち上がっています。また、ESGではありませんが、「インパクト志向金融宣言」という、投融資先の生み出す環境・ 社会へのインパクトをとらえて環境・社会課題を解決するという考え方を持つことを前提に、創出されるインパクトを測定・管理したうえでの投融資判断を推進する、金融機関を中心としたコンソーシアムも立ち上がっており、2022年5月にデジタルガレージグループも参画しております。中でもVC分科会にて、非上場株投資のベストプラクティスを競合他社と日々協議しています。
こうした流れからも、「環境や社会に悪いことをするような会社には出資、投資しない」というネガティブスクリーニングの発想から「ESGの対応をしている会社には出資、投資する」というポジティブスクリーニングと言われる投資手法に大きく切り替わってきているといえます。つまりスタートアップにとっては「ESGの対応をしていると資金調達の幅が広がる」とも捉えられるのです。
最後3つ目は人材の維持と確保についてです。次世代を担っていくZ世代にとって、キャリア選択において「かっこいい」の定義が変わりつつあります。学校でSDGsの17ゴールを覚えているZ世代にとって、社会や環境に良い影響をもたらしていることが、「かっこいい仕事」と考えられてきています。
従って、社員のエンゲージメントやモチベーションという意味でもESGが関わってきますし、この記事にもありますが、優秀な学生がそうした対応をしている会社を選んで入社する流れもあります。
これら、非財務の重要性、投資家からの期待、更には人材確保という点からも、ESGはもはや大企業や上場企業だけがやることではなくなってきており、創業初期から意識して対応していく必要があることがわかります。
最近、ESG重視型のファンドやアクセラレータープログラムを始めとして、スタートアップのESGに注目が出てきていますが、果たしてそれらがスタートアップにどれだけの影響を与えられているのかについてはまだ課題が残っています。
ESGには関心があるが、何からやればいいのかわからない、何をやってはいけないのかわからない、目の前のプロダクト開発との優先順位付けができない…等、単独ではESG経営を進めづらいスタートアップ特有の実態を理解して取り組む必要があると考えています。
長年スタートアップの支援を続けてきたOnlabは、これからも投資先の皆さんに有益な情報やグローバルスタンダードでESG経営に必要な考え方・方法を発信していければと思っています。
(編集:Onlab事務局)
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