2022年05月27日
【プロフィール】
Open Network Lab 原 大介
2005年慶応大学卒業、公認会計士試験合格。2007年より新日本有限責任監査法人勤務。金融業や製造業等の様々な業務の監査に従事。2012年より2年間、アメリカ・シリコンバレーに出向、現地でアメリカ企業の上場を支援(3社)。2015年より、不動産ビッグデータを利用したコンサルティング会社・ゴミを原料としたケミカルリサイクルを営む会社でCFO。エクイティのみならず、デッドや助成金等の様々な資金調達手法に精通。現在までの累積調達額は130億円超。2019年11月よりDG参画。
Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。これまで数百社以上のスタートアップを支援・育成してきました。今回はエクイティファイナンスに心がけておきたいTipsをご紹介します。
【シリーズ目次】
・ 第1の習慣:主体的であること
・ 第2の習慣:終わりを思い描くことから始める
・ 第3の習慣:最優先事項を優先する
・ 第4の習慣:Win-Winを考える
・ 第5の習慣:まず理解に徹し、そして理解される
・ 第6の習慣:シナジーを創り出す
・ 第7の習慣:刃を研ぐ
こんにちは。原大介です。私は、デジタルガレージのOpen Network Lab(以下、Onlab)で、主にプレシード〜シリーズA前後のスタートアップ向けにファイナンスの支援をしています。具体的な支援内容としては、各社の資本政策を一緒に検討したり、事業計画を一緒に作ったり、金融機関や他の専門家を紹介しています。まず、本記事を書いたきっかけですが、私のスタートアップに対するアドバイスは突き詰めると、
①相手のことを理解しましょう
②IPOから逆算して資本政策を作りましょう
③交渉では常に主体的でありましょう
の3点なんですが、この3点は自己啓発の名著である「7つの習慣」
に書かれている内容と同じだなと感じました(パラパラと目次をめくっている時に気づきました)。今回は少し志向を変えて、エクイティファイナンスについて、7つの習慣の観点から説明してみます。(尚、ここに書かせて頂くアドバイスのいくつかは既に他の記事で記載している内容と重複している点についてはご留意ください。)
7つの習慣は、私的成功、公的成功、最新再生の3部構成になっており、私的成功の習慣として、①主体的である、②終わりを思い描くことから始める、③最優先事項を優先するがあり、公的成功の習慣として、④Win-Winを考える、⑤まず理解に徹し、そして理解される、⑥シナジーを創り出すがあり、最新再生(①~⑥の習慣を実行するため)の習慣として、刃を研ぐがあげられます。エクイティファイナンスに例えると、私的成功とはきちんと自分たちのファイナンスを成功させること、公的成功とは自分たちだけではなく投資者にもしっかりと成功してもらうこと、最新再生とは1度の成功にとどまらず更なる高みに上っていくことだと思います。
今回は第6の習慣である「シナジーを創り出す」をファイナンスの観点から説明していきます。
第6の習慣である「シナジーを創り出す」では、シナジーは以下のように説明されています。
シナジーとは、簡単に言えば、全体の合計が個々の部分の総和よりも大きくなることということである。
7つの習慣では、シナジーとは1+1が3とか4になるようなものではなく「一プラス一が八にも、一六にも、あるいは一六〇〇になることである」と説明があります。つまり、ちょっとお互いがWin-Winになるだけでは不十分で、両者がすごくよくなる必要があります。
私が考える一番良い例は、OnlabとSmartHRです。SmartHRはOnlab10期卒業生で、そのビジネスアイディアをOnlabプログラム期間中に見つけました(宮田さんは卒業してから5年以上経つのにその点について定期的に話をしてくれます)。また、直近の資金調達で日本ではまだ数の少ない非上場企業としてユニコーンの仲間入りをしました。一方、Onlabは、SmartHRに参加してもらったことにより、「あのSmartHRが参加したプログラム」として認知されるようになりました。応募してくる多くのスタートアップは次のSmartHRを目指しています。また、現在では4つの姉妹プログラムを運営するほど大きくなっています。
また、シナジー効果が成立するのは、スタートアップ・投資家間だけではなく、スタートアップの経営陣・従業員間でも成立します。例えば、ビジョナリーなCEOと技術がすごいCTOとか論理的なCFOといった組み合わせです。シナジー効果が成立しているチームでは、単純に自分たちの実力の合計値よりも大きな仕事ができます。また、魅力的なチームで、外部からの資金調達も容易にできることが多いですし(バリュエーションも高いことが多いです)、素晴らしい人がどんどん入ってくることも多いです。
では、どうやればシナジー効果を生むことができるでしょうか。
7つの習慣では、「シナジーはあらゆる人の人生においてもっとも崇高な活動であり、他のすべての習慣を実践しているかどうかの真価を問うものであり、またその目的である」とし、創り出すには強い信頼関係が必要で、そのプロセスに至るには、早い段階で必ずと言っていいほど大きな勇気が必要とする瞬間があると言います。
私自身の経験では、私がスタートアップのCFOをしていた会社では、ジョインしたタイミングでシリーズBの資金調達をしていました。2週間くらいCEOと一緒に投資家回りをしていたのですが、自分たちが望んでいる金額や相手が考えている金額等に乖離があり調達は難しいと感じていました。一方、借入についてはまだそこまで手をつけていない状況でした。そこで、私はまずは借入から実行し、ビジネスの成長を見せつつ、シリーズBを再開したらどうかと提案しました。入ったばかりでそのような提案をするのは正直勇気が必要でしたが、それが功を奏して、借入で自分たちの希望する金額を調達し、また、1年遅らせたシリーズBの資金調達では自分たちの希望していた時価総額での調達が可能になりました。
例えば、第4の習慣「Win-Winを考える」では、Win-Win or No DealとしてWin-Winを実現できないのであれば、取引をしないという考えを説明しましたが、その発展を行うことがあります。例えば、スタートアップと投資家が投資には合意したものの、時価総額で合意を得られない場合には、単純に取引をしないと結論づけるのではなく、例えば、普通株式ではなく優先株式にするとか、優先株式の中でも投資家に有利なものにする等の対案を出すことも考えられます。〇か×をつけるのではなく、第3の道を一緒に考えだすのです。実際に、2020年に上場したプレイドは、初期の資本政策で投資家に有利になる株式発行を行うことにより資金調達に成功しています(山岡佑氏の「実践ファイナンススタートアップ 資本政策の感想戦」ではこの点に記述があります。他にも勉強になる内容がたくさん書いてあるので、エクイティファイナンスを考えているスタートアップにはおすすめしたい本です)。
7つの習慣では、第6の習慣「シナジーを創り出す」において、スタートアップも投資家側も投資以上の何かを得られた状態やチームの1+1を100にも200にもする状態です。第4の習慣から第6の習慣までは、公的な成功を指します。資金調達がきちんとできることを前提にして、投資の相手方にとっても投資リターン以上のプラスをもたらす考え方です。次回最終回ではこのような習慣を実現するための基礎的なことについて説明していきたいと思います。
7つの習慣は、ファインナンス活動にむけに書かれた本ではありませんが、普遍的内容であるため、ファイナンスにも役立つかなと思い、本記事を執筆してみました。
最後に、皆さんの中には何を当たり前のことをと思って読んでいる方もいると思うんですが、実際にエクイティファイナンスに限らず、経営というのは当たり前のことを繰り返しやっていく行為です。その中には裏技のようなものはほとんどありません。スタートアップの経営者の皆さんも日々悩むことだらけでショートカットを探したくなるかもしれないですが、是非原則を大事にしてもらえればと思います。
以上、エクイティファイナンス×7つの習慣でした。
(執筆:原 大介 編集:Onlab編集部)
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