2022年04月29日
【プロフィール】
Open Network Lab 原 大介
2005年慶応大学卒業、公認会計士試験合格。2007年より新日本有限責任監査法人勤務。金融業や製造業等の様々な業務の監査に従事。2012年より2年間、アメリカ・シリコンバレーに出向、現地でアメリカ企業の上場を支援(3社)。2015年より、不動産ビッグデータを利用したコンサルティング会社・ゴミを原料としたケミカルリサイクルを営む会社でCFO。エクイティのみならず、デッドや助成金等の様々な資金調達手法に精通。現在までの累積調達額は130億円超。2019年11月よりDG参画。
Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。これまで数百社以上のスタートアップを支援・育成してきました。今回はエクイティファイナンスに心がけておきたいTipsをご紹介します。
【シリーズ目次】
・ 第1の習慣:主体的であること
・ 第2の習慣:終わりを思い描くことから始める
・ 第3の習慣:最優先事項を優先する
・ 第4の習慣:Win-Winを考える
・ 第5の習慣:まず理解に徹し、そして理解される
・ 第6の習慣:シナジーを創り出す
・ 第7の習慣:刃を研ぐ
こんにちは。原大介です。私は、デジタルガレージのOpen Network Lab(以下、Onlab)で、主にプレシード〜シリーズA前後のスタートアップ向けにファイナンスの支援をしています。具体的な支援内容としては、各社の資本政策を一緒に検討したり、事業計画を一緒に作ったり、金融機関や他の専門家を紹介しています。まず、本記事を書いたきっかけですが、私のスタートアップに対するアドバイスは突き詰めると、
①相手のことを理解しましょう
②IPOから逆算して資本政策を作りましょう
③交渉では常に主体的でありましょう
の3点なんですが、この3点は自己啓発の名著である「7つの習慣」
に書かれている内容と同じだなと感じました(パラパラと目次をめくっている時に気づきました)。今回は少し志向を変えて、エクイティファイナンスについて、7つの習慣の観点から説明してみます。(尚、ここに書かせて頂くアドバイスのいくつかは既に他の記事で記載している内容と重複している点についてはご留意ください。)
7つの習慣は、私的成功、公的成功、最新再生の3部構成になっており、私的成功の習慣として、①主体的である、②終わりを思い描くことから始める、③最優先事項を優先するがあり、公的成功の習慣として、④Win-Winを考える、⑤まず理解に徹し、そして理解される、⑥シナジーを創り出すがあり、最新再生(①~⑥の習慣を実行するため)の習慣として、刃を研ぐがあげられます。
エクイティファイナンスに例えると、私的成功とはきちんと自分たちのファイナンスを成功させること、公的成功とは自分たちだけではなく投資者にもしっかりと成功してもらうこと、最新再生とは1度の成功にとどまらず更なる高みに上っていくことだと思います。
今回は第2の習慣である「終わりを思い描くことから始める」をファイナンスの観点から説明していきます。
第2の習慣「終わりを思い描くことから始める」において、その重要性は以下のように説明されています。
終わりを思い描くことから始めるというのは、目的地をはっきりさせてから一歩を踏み出すことである。目的地がわかれば、現在いる場所のこともわかるから、正しい方向で進んでいくことができる。
本書では自分の葬儀の場面を真剣に思い浮かべることにより、自分の内面の奥深くにある基本的な価値観に触れることを推奨しています。一方で、法人は、人間と違って終わりがありません。法人の終わりはどこにおけばよいでしょうか?回答としては可能な限り先におけばいいと思います。例えば、ソフトバンクグループCEOの孫正義氏は、「孫正義 300年王国への野望」という書籍で、ソフトバンクを300年継続する企業となるための信念等が説明されています。とはいえ、自分の寿命より遥か先の計画を立てるのはなかなか難しいです。そこで、私は、スタートアップが想定している大きなイベント、例えばIPO等を一旦の終わりと設定して、そこから逆算することを提案しています。
IPOの時期はいつとしたらいいでしょうか?例えば、VCから投資を受けている場合には、そのファンドの期限をIPOの時期にすればよいと思います(VCのファンド期限については第4回で説明します)。また、VCから投資を受けていない場合には、次のファインナンス時にVCから出資を受けると想定して、次のファイナンスの時期から7~8年以内にIPOすると想定すればよいでしょう(7~8年とした理由は、一般的にファンドの期限は10年であり、最初の5年間を投資期間、後半の5年間を運用期間とすることが多く、最初の投資期間の真ん中で投資を受けたと想定した場合には、7.5年となります)。
一方で、ファンドの期限を待たずに上場を考えたいとか、そもそもVCから投資を受ける予定がない場合には、IPOするにあたって一番制約が大きい監査の期間から逆算するとよいでしょう。IPOするためには、IPO前の期間(直前期)とその前の期間(直前々期)の監査証明が必要になります。また、IPOする期間(申請期)の四半期レビューも必要となるため、2~3年程度必要になります。IPOは様々な要因により伸びることも多いので、4~5年程度見込んでおけばよいのではないでしょうか。
IPOの時期が決まれば、そこまでにどのような資金調達が必要なのか(何回、どの程度の金額)、考えることができます。勿論、IPOのタイミング等は流動的だとは思いますが、変わる都度シミュレーションしていけばよいですし、指針が出るとすっきりした気分になります。
では、終わり(ここではIPO)から考えずにファイナンス活動をするとどのような問題が発生するでしょうか?簡単に言うと、行き当たりばったりなファイナンス活動になってしまいます。放出率が高くなり、経営者の持ち株比率が下がってしまい、経営が安定化しなくなる可能性があります(但し、経営陣の持ち株比率が低いことが絶対的に悪いということではなく、例えばラクスルのように経営陣の持ち株比率が低いが成功している会社はたくさんあります)。また、低すぎるバリュエーション、高すぎるバリュエーションで調達して、次の調達時に適切なバリュエーションにするのに苦労する可能性が高いです。
7つの習慣では個人のミッションステートメントを書くことを推奨しています。個人のミッションステートメントとは、会社でいうミッション・ビジョン・バリューだと言えます。何故、会社のミッション・ビジョン・バリューが重要かというと、投資家が投資するのはスタートアップの今あるプロダクトだけではなく、スタートアップのチームやその実現したい世界観や物語です。そのため、自社内外に自分たちのことをわかりやすく伝えるミッション・ビジョン・バリューは重要になってきます。NY大学のMBAでコーポレートファイナンスとバリュエーションを教えているアスワス・ダモダラン氏の著書「企業に何十億ドルものバリュエーションがつく理由」で、企業のバリュエーションを決定するのはストーリーとその背景にある数値の確からさだと説明しています(例としてアメリカの歯医者サービスであるUberとLyftを挙げ、両者のバリュエーションの違いをストーリーの大きさの違いから説明しています)。
7つの習慣では、第2の習慣「終わりを思い描くことから始める」において、人生の終着点から考える重要さ、ミッションステートメントの重要性を説いています。スタートアップのファイナンスにおいても、後で後悔しないよう将来から逆算して考えることが重要ですし、投資家から投資を受けるうえではミッション・ビジョン・バリューに代表されるストーリーが重要になってきます。
7つの習慣は、ファインナンス活動向けに書かれた本ではありませんが、普遍的内容であるため、ファイナンスにも役立つかなと思い、本記事を執筆してみました。
以上、エクイティファイナンス×7つの習慣でした。
(執筆:原 大介 編集:Onlab編集部)
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