2023年10月26日
Seed Accelerator Program(シードアクセラレータープログラム)を運営するOpen Network Lab(以下「Onlab(オンラボ)」)は、2023年10月20日、第27期のDemo Dayを開催しました。5社のスタートアップが多くの投資家や事業会社の皆様を前にピッチしています。またOnlab卒業生の2社もAlumni Ptichに登壇し、現役時からの事業のアップデートを報告してくれました。各社のピッチを振り返りながら、第27期Demo Dayの受賞企業を紹介します。
最優秀賞、及び会場参加者の投票で決まるオーディエンス賞をダブル受賞したのは、分断された木材流通を再構築する木材プラットフォーム「eTREE(イーツリー)」を運営する株式会社森未来(シンミライ)です。
日本は森林率が68%と世界第3位の森林国家。しかしながら木材自給率は40%程度と年々低下しており、海外からの輸入材を使う機会が多くなっています。以下に記載の通り近年国産材のニーズが高まっているものの、一度失われたサプライチェーンを復活させるのは簡単ではありません。
この課題をインターネットの力で解決したのが木材プラットフォーム「eTREE」です。全国100社以上の木材業界とのネットワークを活かし、木材業界をDX化して建設業界とつなぎ直します。
これまで設計者が新たな木材業者と取引しようとすると、木材をどこから調達し、加工し、塗装し、どのように運搬するかを調整するのが大変でした。eTREEは木材の最適なサプライチェーンをワンストップで提供することで、この課題を解決します。
既にユーザーも獲得しており、これまで寿司のカウンターやグランピング施設、トレーラーハウスを建てるためにeTREEは使われてきました。主なターゲットは建築業界のうち非住宅内装市場で、非住宅木造市場も視野に入れています。行政や木材事業者が類似サービスを提供していますが「データベースを持ち、調達・加工・物流など、サプライチェーンの全てを一連で提供できるのはeTREEだけだ」と、森未来代表の浅野さんは胸を張りました。
ところで、近年、国産材を使用するニーズが高まっています。これまで公共建築には木材の使用が促されていましたが、法改正により民間建築にもこれが適用されることになったのです。これにより今後企業が自社ビルを建てる場合など、国産材利用のニーズは高まっていくでしょう。
また2023年、東証に新たな市場が開設されたように、今後カーボンクレジット取引の活性化が見込まれています。とはいえ現状はまだまだグリーンカーボンの創出量は不足気味。この課題を解決するべく森未来は、林業家が必ず作る森林経営計画からCO2を吸収するロジックを、大学などと共同研究で進めています。
審査員特別賞を受賞したのは、株式会社Linkhola(リンコラ)でした。世の中にカーボンオフセットを溢れさせ、脱炭素の動きを実質的に進める世界を作る。そう語るのは代表の野村さんです。彼女は東京大学で環境学の博士号を取得。その後国立環境研究所を経てJ-クレジットの制度設計に携わった実績を携え、Linkholaを創業しました。
今や世界の共通課題となった地球温暖化。CO2は2030年までに半分、2050年にはゼロにしなければいけません。2030年には炭素クレジット市場だけでも25兆円に成長すると言われるほど、このコミットメントに向け国内外で脱炭素に向けた様々なプロジェクトやビジネスが出現しています。
国内でも企業が脱炭素の取り組みを進めていますが、現在その手段は「省エネ・節電」「電気・水素自動車」「再生可能エネルギー」の3種類に限定されています。しかし、これだけではカーボンニュートラルゼロの目標達成が難しく、カーボンオフセット(相殺)・クレジットに頼らざるを得ない状況です。圧倒的に不足しているカーボンクレジットに対し、Linkholaは「多種類化」「高速化」の観点から解決しようとしています。
まずは「多種類化」。官庁のクレジットは「太陽光発電」「EV」などの5種類に限られているものに、「移動の脱炭素」「ブルーカーボン」など様々なクレジットを加えます。続いてクレジット審査の「高速化」。多段階で時間のかかる審査を、システムの構築によって圧縮。1度申請した情報をデジタル化することで、次回以降の審査はさらに高速化されます。
またLinkholaは、創出したクレジットを、オフセットマッチングプラットフォーム「EARTHSTORY(アースストーリー)」を通して販売できるようにしました。すでに個人の移動により削減したCO2が販売できるようになっています。
カーボンクレジットビジネスには「創出」「発行」「取引」の3種類がありますが、この3つを全て同時に行えるのがLinkholaの競争優位性です。
株式会社AmaterZ(アマテルズ)が開発するのは、過酷な環境であらゆる用途に使えるIoTシステム「tukumo(ツクモ)」です。tukumoは複数の発電機センサーや通信モジュールが組み込まれたIoTセンサーで、様々な情報を取得し無線で知らせます。初期ターゲットは「養鶏場」です。
2023年、鳥インフルエンザの脅威が迫っており、国をあげた衛生管理基準見直しの動きが進んでいます。また養鶏場の課題として、1鶏舎に1万羽が一気に育てられている、出荷までに300羽が死んでしまう、日本で主流のカゴを使った飼育方法はEUで禁止されている、キツい・汚い・稼げないのハードワークで恒常的な人不足といった様々な問題を抱えています。
AmaterZはこれらの課題を、tukumoで解決していきます。tukumoを使えば、温度、湿度、明るさ、CO2、メタン、アンモニアなどの値が計測され、送信器からゲートに送られ、ゲートからクラウドを通じてデータが得られるようになります。無線で行うため、一般的な通信設備は必要ありません。tukumoの特徴は「中継機」で、これがあることで、現場のデータ途切れを防げます。
従来養鶏場が使ってきたのは手持ちタイプのセンサーだったので、使ったタイミング・場所でしかデータを取得できませんでした。しかしtukumoなら、設置した場所のデータを恒常的に取得できるようになります。養鶏場の管理をtukumoを用いて自動で行うことで、現場での作業負担を軽減し、生産性を向上させることで、1鶏舎あたり年間1,000万円程度の固定費を削減できる見込みです。
AmaterZは養鶏場だけでなく、既にインフラや養殖、農業など15用途、500箇所での実証実験を終えたとのこと。あらゆる場所・用途で、tukumoがデータ収集に貢献していきます。
3DモデルをAIで制作できる3D.ai(スリーディードットエーアイ)を開発するのはbestat株式会社(ビスタット)。代表の松田さんは経済産業省を経て、東京大学松尾研究室で博士号を取得しています。
Google、Microsoft、Amazonといったメガプラットフォームが既に実装しているように、3Dコンテンツは我々の身近なものとなりました。しかし今その開発をしようとすると、2社以上の関わりが必要で、人力で制作するために高コストになるといった課題があります。この課題を「3D.ai」をもって解決するのがbestat社です。
3D.aiを使えば、一気通貫、短納期、高品質で3Dコンテンツを制作できるようになります。使い方は簡単で、3Dにしたい対象を360度アプリで動画撮影し、クラウドにアップロードするとAIが3Dモデルを出力。これに必要に応じて補正を加えれば、ARモデルがリリースできます。AIが制作するため工数が大幅に削減され、あらゆる対象で高品質な3Dを制作可能。なお、3D化の需要が高い工業製品については特許も取得しています。
3D.aiの初期ターゲットはCG制作会社やゲーム制作会社。ベータ版のモニター企業からは「提案の幅が広がる」「人手不足に対応できる」といった声が届いています。将来的には事業会社や一般ユーザーにも裾野を広げていく算段です。
3Dを制作できるプラットフォームは世界にいくつかあるものの、「最も自動化率が高く、ARへの変換といった一気通貫ができるのはbestatだけ」と、代表の松田さんは3D.aiの優位性を説きます。
愛知県豊田市のスタートアップ、エイトス株式会社が開発するのは、改善提案クラウド「Cayzen(カイゼン)」です。(編注:以下「Cayzen」はサービスを、「カイゼン」は現場の活動としてのカイゼンを指します)
Cayzenがテーマにしているのは、カイゼンの提案制度。カイゼン提案は9割以上の製造業で使われており、現場の改善アイデアを集め管理者が評価・フィードバックすることで、教育やプロモーションに役立てられてきました。
特に昨今は、省エネやCO2削減の要請が高まっています。例えば電気代は昨年に比べて約3割も高騰。1つの工場で5億円以上もコストが上がっているケースも出ています。とはいえ、そもそもCO2や電力削減をできる方法は限定的。設備や再エネへの投資は一時的な効果にはなりますが継続性はありません。またクレジットの購入はコストがかかり続けます。こうした事態を乗り越えるためにも、カイゼンの必要性は高まっているのです。
しかしエイトス代表の嶋田さんによれば、カイゼン提案は未だに大手企業でも紙で運用されていることがほとんどだそう。このような状況をエイトスは、現場のアイデア収集・管理・評価・フィードバック、効果の可視化までワンストップでサポートするSaaS「Cayzen」で解決します。
電力・CO2削減を例にとると、Cayzenのステップは大きく3つです。即ち、①電力原単位(各工場・設備ごとの1秒稼働あたり使用電力・CO2)情報の取り込み、②Cayzenへアイデア投稿、③電力量・CO2排出量の自動算出です。これにより工場別・設備別にカイゼン目標の進捗度や推移が分析できるようになります。また各現場のアイデアには、継続的に高い質の改善を維持するためのフィードバックを、AIが自動で行います。
電力・CO2削減への取り組みは業界最大手で始まったばかり。脱炭素・削減への動きが加速するほど、市場はこれから拡大していく見込みです。
Onlab第24期を卒業した株式会社Ex-Work(エクスワーク)が提供する「Job-Us(ジョブアス)」は、ジョブ型組織に欠かせない「職務・ポジション情報」の効率的な運用を可能にするクラウドソリューションです。
Job-Usの主要な機能をいくつか紹介します。まずはポジション管理。組織ツリーに基づいて社内のポジションを管理します。次にJD(Job Description)と呼ばれる職務記述書の作成・運用。フォーマットや入力規則を使うことで、簡単にJDが作れ、バージョンステータス管理やレビュー・ワークフローなどにも対応しています。JDの作成にはライブラリーや提案機能を使うことで、JDの作成補助も可能です。職務評価と呼ばれる職務の価値付け機能では、評価基準に従って項目ごとに点数付けをしていき、適正な報酬や等級算定に繋げます。この他にもJDの作成・運用など様々な機能を備えているのがJob-Usの魅力です。
Job-Usには、組織や給与などのデータが蓄積されていくため、今後、これらのビッグデータとAIを使った人材マッチングや報酬算定などのサービス提供も計画しています。
不動産×ESG最適化プラットフォーム「EaSyGo(イージーゴー)」を提供するのは、Onlab第22期卒業生の株式会社GOYOH(ゴヨー)。
不動産には環境面のみならず、人々の住みやすさや地域開発といったESG要素が多数詰まっています。環境や社会的適性が低い不動産は価値が減少し、逆にESG要素の高いビルは価値が上がるなど、不動産に投資するグローバルな機関投資家にとって、ESGは重要な関心事です。とはいえ、不動産に関するデータ収集やポートフォリオの最適化、テナントとの連携は簡単ではありません。そんな機関投資家の悩みを解決するのがEaSyGoです。
EaSyGoは、ESGに関するデータ収集・投資解析・エンゲージメント・共創サービスといった機能を提供しています。賃貸住宅の電力量を計測するサービスや、ESG要素を考慮してビルオーナーとテナントの経済性・社会性をマッチングさせたりといったサービスを提供し、オールインワンで機関投資家に貢献。GOYOH代表の伊藤さんは「EaSyGoを利用することで機関投資家は、ESGにより経済的リターンを上げ、社会的インパクトを創造し、CO2削減に繋げることが可能になる」と話します。
EaSyGoは既に国内やフランス、ドイツ最大手の不動産運用会社を顧客に抱え、国内でも200を超える住宅や、1.2万人が働くビルにサービスが導入されています。
木材プラットフォーム「eTREE」を提供する森未来の最優秀賞受賞で幕を閉じたOnlab第27期のDemo Day。Onlabは今後も引き続きスタートアップを支えていきます。
Onlabでは、2023年10月31日(火) 正午まで、第28期シードアクセラレータープログラムへの参加チームを募集中です。社会課題解決に熱意あるアイデアやソリューションを持つスタートアップは今すぐエントリーを。無料でオンライン事業相談会も実施しています。
(執筆:pilot boat 納富 隼平 編集:Onlab事務局)
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